明星山/P6南壁/左岩綾フランケ/新ルート開拓
GO TO HEAVEN(天国へ行こう)

ARIアルパインクラブ/有持真人、河角敏樹


< 記 録 > 有 持 真 人


<ルート名> GO TO HEAVEN(天国へ行こう)

<グレード> 5級上/AA2  4P(75m) 

<所用時間> 9〜11時間 ※ オリジナルピッチのみです。

<開拓者>  9月21日 1〜2p(ARIアルパインクラブ/有持、河角) 
        11月2日 3〜4p(有持の単独開拓)

<記録写真>  <ルート図>

<記録>

 昨年の11月に明星山を訪れた時に目を付けていたクラックを、やっと1年ぶりに開拓する事になった。

 下部から偵察したときには、上部のクラックがかなりワイドに見えたため、知り合いから借用したりして、
キャメロットの大きめのサイズを多数そろえて開拓の準備を進める。実際には全く使わなかったが・・・。

 予定のライン取りは、左岩綾フランケルートの左から取り付き、右にトラバース、そして左岩綾ルートの
左にあるハングを越え、上部のクラックを登り、五月ルートまでトラバースするというものである。

 このルートは、5分もあれば取り付きまで行けるという好条件のため、開拓には2日を考えていた。しか
し、パートナーが2日間連続の休みがとれないということもあり、とりあえず1日で開拓できるところまで
登攀する事にした。

9月28日(日)晴れ

駐車場(0630)〜取り付き(0635/0700)〜2P目終了点(1300/1315)〜取り付き(1400/1430)
〜駐車場(1440)

 多数のギアをフォールバックに詰め駐車場を出発する。明星山はアプローチが近いので本当に助かる。甲
斐駒のAフランケのように、開拓といってもギアの事前の荷揚げの必要はないし、日が暮れるまで登っても
ビバークの必要も無く、すぐに下降ができるので精神的に楽である。

 いつもなら大勢のクライマーで賑わっているのに、今日はやけに静かだ。取り付きで準備を整え、無事を
祈って河角と握手を交わし開拓を開始する。

※ 括弧はリード者名。リード、フォローの時間にはビレーポイントでの操作や荷揚げ、交代時間、クライ
ムダウンの時間は含んでいない。

1P 20m AA2 (有持)(リード)2時間 (フォロー)1時間

 取り付きは、左岩綾フランケルートの左側でハングの一番左端になる。ビレーポイントとしてリングボル
トを2本打った。

 出だしからいきなりハング越えの核心である。万が一墜落するとグランドフォールは確実なので、取り付
き周辺にある石をどかして少しでもダメージが少なくなるように努力はするが、気休めにしかならない。

 まずロストアローを1本打つ。これは確実に効いているので安心してアブミに乗り込み最上段で巻き込む。
問題は次だ。

 リスはあるのだが見るからに脆そうだ。ナイフブレードを打つが岩がボロボロと剥がれてなかなかセット
できない。落とせそうな岩はすべて叩き落として、やっと打ち込んだ。テスティングでは効いていそうだが
半信半疑でアブミに乗る。

 ここでナイフブレードが抜ければ、後頭部からグランドフォールは確実だ。本当に天国へ行ってしまう。

 「何とか効いている。早く次ぎを打たなければ・・・。」リスを探すが効きそうなものが全くない。スカ
イフックを掛けるエッジもない。仕方なくリングボルトを打ち込んだ。出だしからボルトを打つのも気が引
けるが仕方がない。

 その上部は小ハングが右上してつながっている。その基部にクラック走っておりそこをアングル、バカブ
ー、ナイフブレード各種を使いネイリングしていく。

 ピトンの効きは比較的良いが、すべて下向きなのであまり気分は良くない。

 クラックが終わった辺りで左岩綾フランケルートと合流し、ボルトラダーを4ポイントほど登り、左岩綾
フランケルートの1P目終了点まで登る。

 ここにペツルアンカーを1本打ち、残置支点と併せてビレーポイントとする。

2P 20m AA1+(有持)(リード)1時間40分 (フォロー)40分

 ここから上部のハングに行くためには<白い岩>を直登しなければならない。しかしここは風化が激しく、
岩はボロボロで登攀は不可能である。そこで、右にトラバースして脆いクラックを直上することにする。

 前傾壁をネイリングトラバースしていくとリスが無くなりリングボルトを1本打つ。そしてバカブー1本
で脆いクラックにたどり着いた。最初は比較的ワイドなのでキャメロットを使うのだが岩が脆くどうも信用
ならない。短めに支点をセットしていく。

 その後、アングル、ロストアロー、バカブーの連打になる。しかし効きはあまり良くない。リスが無くな
り中間部とビレーポイント直下でリングボルトをを打ってしまう。中間部のリングボルトあたりからはフリ
ーでも行けそうな感じもしたが、岩が逆層だしエイドのフル装備では重すぎてとうてい無理だろう。

 ハングの直下にはリングボルトが2本残置してあった。誰かが試登したのだろうか?しかし、下部のクラ
ックにはピトンを打った形跡は全くなかった。

 ハングの庇の真下でペツルアンカーを1本打ち、残置のリングボルトと併せてビレーポイントをセットし
ハンギングビレーをする。そしてフォローの河角を迎えた。

 河角によると、「直登のピトンはほとんどが数回叩いただけで回収できた」と言うことであったが、リン
グボルトを打ったのでグレードはAA1+とした。

 まだ時間は少し早いが、帰りの渋滞を考えて今日はここで終わりとしザイルを2本フィックスして懸垂下
降した。

11月2日(日)晴れ

駐車場(0645)〜取り付き(0650/0730)〜4P目終了点(1330/1345)〜取り付き(1400/1430)
〜駐車場(1440)
              
 本当は11月2日に、原と二人で開拓をするはずであったが、冬型気圧配置でおまけに寒気が入ってしま
い日本海側では雨、山間部では雪になってしまった。そのため、仕事の都合を無理矢理変更して、移動性高
気圧の来る3日に行く事にした。

 しかし、原の都合がつかなかったために結局、単独で開拓する事になった。当初は日程を少しのばす事も
考えたが、時期が時期だけに来年に延長になる可能性もあるので単独ででも開拓する事にした。

 途中で仮眠して、明星山に着いたのが午前6時。早速準備に取りかかる。昨日の雨のせいだろうか、来て
いるクライマーはまだ少ない。

 フィックスしてあったザイルをユマーリングし、2P目の終了点まで40mを登り返す。フル装備のギア
が重く30分もかかってしまった。

 このころになると、左岩綾には多数のクライマーが押し寄せて10人近くが順番を待っていた。

3P 15m AA1+(有持/単独)
           (リード)1時間10分 (フォロー)15分

 今日はハング越えからだが、単独なので準備がなかなか大変だ。単独では少しのミスが命取りになるので
慎重にギアをセットし確認をする。

 ハングの庇を直登すると左岩綾にでてしまうので、上部のクラックを目指して左の少しくびれた所からハ
ングを乗越す事にした。

 ハング基部のクラックをキャメロット2個を使ってトラバースする。すると庇にリスが走っていた。すか
さずロストアローを1本たたき込む。しかし半分しか入らない。

 下向きだがテスティングするとなんとか効いているようだ。「まあ、ここで落ちてキャメロットが外れて
もビレーポイントで止まるだろう。」と開き直ってアブミに乗り込んだ。最上段で巻き込んでレストの体制
をとる。

 ハングの上にリスはあるのだが、浮き石だらけで使いものにならない。おまけに真下はちょうど左岩綾の
取り付きになり、順番待ちのクライマーが大勢いるため岩を落とすわけには行かない。

 仕方なくハンマードリルでリングボルトの穴をあけていると、何事かと下にいる20人近くのクライマー
が一斉にこちらを見上げている。穴にリングボルトをたたき込むと穴の回りがボロボロと剥がれてきた。

 これでは使いものにならない。めいっぱい手を伸ばしてさらに上部に穴をあけたが力が入らないので時間
がかかった。

 リングボルトに乗り込んで「ホッと一安心」。アングルとロストアローを打ち2mほどのフリーでビレー
ポイントへ。ここにも残置のボルトがあった。懸垂下降用の支点の様だ。ペツルアンカーを1本打ち足して
ハンギングビレーをする。

 さて、次は単独なので自分で回収をしなければならない。ハングでおまけにトラバースが入っているので
懸垂下降をするわけにはいかない。エイト環をセットして懸垂の体制をとりながらクライムダウンをしてい
く。これなら支点が抜けてもどこかで止まるだろう。

 何とか無事下降し、支点を回収しながら登り返す。ハングの庇に打った下向きのロストアローはいとも簡
単に回収できた。「抜けなくて良かった・・・。」

 フォールバックを荷揚げし、遅い朝食にする。天気は快晴、陽がよく当たり暖かい。相変わらず左岩綾は
すごい順番待ちだ。

4P 20m AA2−(有持/単独)
           (リード)1時間40分 (フォロー)40分

 次は前傾壁にあるクラックの登攀だ。エイリアン、キャメロット、アングル、ロストアローのミックスで
登っていく。カム類は慎重にサイズを選んでセットしないとテスティングで簡単に外れてしまう。

 ピトンはアングルをメインにロストアローを使ったが、簡単に打つことができた。1ポイントにテスティ
ングは10回以上はやったが抜けなかったので効いているのだろう。

 しかし、フォローで回収の時に全てのピトンが3回程度叩いただけでいとも簡単に回収できてしまった。
果たして墜落に耐えられるのだろうか。「墜落しなかったし、ま〜いっか!!気にしない・気にしない」

 前傾壁が終わって傾斜が落ちる直前の所でリスが無くなり、エッジにフッキングしようとしたが、少し外
傾しているため、アブミに体重移動をするとスカイフックが外れて危うく墜落しそうになる。

 下のピトンも信用ならないのでボルトの誘惑に負けてしまいリングボルトを1本打ってしまった。
「俺って根性なしだ・・・」ボルトに乗って一言。

 再登した方で必要ないと思った方は遠慮なくボルトを抜いて下さい。

 ボルトの上部は若干傾斜が落ちてくるが次のリスが少々遠い所にある。何とかアングルをたたき込み登攀
を続行。

 ここまで来ると、左岩綾フランケルート2P目の終了点のビレーポイントが見えている。あともう少しだ。

 ビレーポイントまで水平に走っているリスをネイリングトラバースしていく。ここのピトンはよく効いて
いるので安心だ。

 最後はキャメロットを決めて少しのフリーでビレーポイントのシュリンゲをつかんだ。セルフビレーをと
って「ホッと一息!!」。

 休む暇もなくまたクライムダウンをしてフォローで支点の回収をする。ピトンが簡単に抜けたのであまり
時間がかからなかった。

 これから先は、予定では<五月ルート>までネイリングトラバースをするはずだったが、実際に近くで見
るとリスが無く、ボルト連打をしてまでつなげたくはなかったのでここで終了とした。

 ここから左岩綾フランケルートを登ることができるが、普通なら重いギアを持って登る気にはならないだ
ろう。時間と体力に余裕があれば登ってみるのもいいかも・・・。

 下降は45mの空中懸垂下降1回で取り付きに戻ることができる。疲れているので気を抜かないように。

 単独登攀も自分のペースで登れるので気楽で良いが、クライムダウンや登り返しがあり休む暇が無く、ネ
イリングルートでは結構疲れる。「これも好きでやっているからしかたないかな・・・。」

 このルートには2箇所のオーバーハングがあり、その他もほとんどのピッチが前傾壁で、ブッシュも全く
なくすっきりしており、ネイリング技術の完璧に身に付いた中級者以上には十分登りごたえのあるルートに
なったと思う。

 ただし、石灰岩と言うこともありカム類やピトンの効きがいまいち信用できない箇所もあるので十分に注
意が必要となる。

 アプローチも近いし、敗退する場合でも簡単に懸垂下降で退却できるので、明星山南壁でのフリークライ
ミングに飽きて、ちょっと刺激のほしい方には是非登ってほしいと思う。

 ルート名は、1P目の出だしで落ちると、本当に天国へ行く可能性があるので<GO TO HEAVEN(天国へ行
こう)>と命名した。

<使用ギア>

キャメロットジュニア × 2セット
エイリアン      × 1セット
アングル       × 6
ロストアロー     × 3
バカブー       × 2
ナイフブレード    × 1
カラビナ       × 多数
シュリンゲ      × 多数
リングボルト     × 5(登攀用支点)
ペツルアンカー    × 3(ビレーポイント用)全て残置。
ハンマードリル    × 1
バッテリーパック   × 3(予備も含む)
フォールバック(小) × 1
ザイル(9mm×45m) × 2   
ザイル(11mm×50m) × 1
その他通常のクライミングギア一式

 このルートは岩の表面がかなりザラついているためニーパットは必携である。

 そして、このルートを登るために一番必要なものは<開き直り>である。

★ エリア別山行記録へ戻る ★ INDEXへ戻る