黒伏山南壁/新ルート開拓/蒼天航路

ARIアルパインクラブ/有持真人、宮川良成、原岳広


< 記 録 > 有 持 真 人


<場所>   黒伏山南壁

<ルート名> 蒼天航路(そうてんこうろ)

<グレード> 5級 AA2+ 105m

<所要時間> 9〜10時間
 
<山行日>  1997年8月14日(木)1P〜2P 有持真人、宮川良成、原岳広
               16日(土)3P〜5P 有持真人、原岳広  

★ 記録写真    ★ ルート図
 
 5月の丸山南東壁の開拓に続き、今回は東北の黒伏山南壁でアメリカンエイドの新ルートを開拓する事になり、
3名で出発、後日に1名が合流する事になった。

 季節はずれの停滞前線のおかげで富山、新潟から福島まで雨が降っている。このまま前線が居座ればせっかく
の休みが丸つぶれになってしまうかもしれない。

 出発前にインターネットで各種天気図を収集して自分なりに予想したところ、前線は南下傾向にあり、天候は
回復しそうだと判断し出発する事にした。

8月12日(火)夜出発

8月13日(水)曇〜晴

 駐車場 〜 南壁下部 〜 試登 〜 南壁下部 〜 駐車場
 1100        1200/1300       1500/1530   1600

 首都高は順調に抜けたが東北自動車道で大渋滞にはまってしまう。結局山形まで12間近くかかってしまった。

 黒伏山南壁はアプローチが1時間と近いため、BCは張らずに毎回下山して車中泊とする事にした。 

 宇都宮山岳会/遠藤さんがわざわ送ってくれた、詳細な地図を片手に出発する。

 夏ということもありブッシュが多い。かすかに残る踏み後を探しながら進んで行くと今にも崩れそうな中川橋
がある。橋の先でブッシュがひどくなり踏み後も判然としないがだいたい見当を付けて前進する。

 一般道に出会いトラバースし、キビタキの池への道をさがす、少し分かりづらかったが迷うこともなく到着し
た。キビタキの池には水は無かった。

 ここから南壁までは漆の木が多く、触らないように気を使いながら登っていく。駐車場から約1時間で到着し
た。遠藤さんの地図が無ければたぶん迷っていただろう。感謝!

 南壁を見上げてみるとやはり壁にはブッシュが多い。取り付きもブッシュに覆われている。

 開拓をするとすれば、ダイレクトルートの右側のハング帯がルート図上では空白になているため、とりあえず
試登をする事にした。

 ガレからブッシュ混じりの壁を登りブッシュバンドにはい上がりハングを見上げてみると、目を付けていたラ
インにボルトラダーがあるではないか。おまけに上部まで続いている様だ。

 それも、クラックやリスがある真横にボルトを打ってある。なぜそこまでしてボルトを打つ必要があるのだろ
うか。ボルトを打ったクライマーの神経を疑いたくなる様な悲惨な状態だった。

 最初はボルトをすべて撤去してルートを再生しようかとも考えたが、地元クライマーの練習場所になっている
かもしれないし、無理にトラブルの元を作ることもないので、ほかのラインを探すことにし懸垂下降した。

8月14日(木)晴〜曇

 駐車場 〜 南壁下部 〜 3P途中まで開拓 〜 南壁下部 〜 駐車場
   0800        0900      1000/1600     1700     1800

 今日は天気が良くかなり暑い。水が足りるか心配になってくる。
 
 ルート図を検討したところ、通演低音ルートと蒼山会ルートの間のハング付近が開拓できそうだったので、ブ
ッシュバンドまで登って様子を見ることにする。

※ 括弧の名前はリード者

1P 5.7/40m(有持)
  
 中央の簡単なクラックを登りブッシュ帯へ突入、木登り混じりで登ると通演低音ルートのビレーポイントと思
われるボルトがありピッチを切る。宮川、原はユマーリングで続く。

2P AA1/15m(有持) リード/1時間15分、フォロー/35分

 ビレーポイントから上部を観察すると小ハング帯が真上にあり、小ハング帯の左端にきれいなクラックが走っ
ている。

 ビレーポイントから直上ルートもできそうだったが、あまりにもクラックが綺麗だったのでブッシュバンドを
15mトラバースしてクラックに取り付く事にした。

 クラックの真下にリングボルトを1本発見した。もしかするとこのクラックは試登されているかもしれないが、
とりあえず登攀を開始する。

 出だしはエイリアンの小サイズから始まりキャメロット、フレンズ、クワッドカムなどカム類を各種使用して
登っていく。

 最初は岩も硬く快適であったが、上部になるといかにも岩が浮いているというのが分かる。もし墜落するとク
ラックが開きかねないので、右側のリスにバカブーを打ち保険にする。

 小ハングの下部を少し右よりに登り、バカブー、ナイフブレードで小ハングを乗越し、RCCボルト×2、リ
ングボルト×1でビレーポイントを作成しピッチを切る。ビレーシートを出しハンギングビレーをする。

 ペツルアンカーでは穴開けに時間がかかるし、ハンマードリルのバッテリー消費が激しいため、今回の開拓で
はビレーポイントの作成にはRCCとリングボルトを使用した。これだと1本の穴開けに10秒もかからない。

 ここに3人ぶら下がるのは厳しいので、宮川がフォローで登り、原はクラックの取り付きで待機する事にした。

3P 途中まで試登(宮川)

 予定では小ハングの上部を登り上部ブッシュ帯の下部に見えているクラックにつ繋げようと考えていたが、小
ハングの上部にはまたもやボルトラダーがあるではないか。クラックやリスがあるのにボルトを打つ感覚が私に
は分からない。

 仕方なくこのラインはあきらめて左上し、左の小ハングを目指す事にした。宮川がリードで登攀を開始する。

 バカブー、ナイフブレード、ロストアローで縦リスをつなげてトラバース気味に左上して行くと、途中で宮川
が騒ぎ出した。クラックがエキスパンディングしている様だ。上部にロストアローを打つとクラックが開いてア
ブミをセットしているバカブーが下を向いてしまったらしい。あわてて1本手前に戻った。

 何度か同じ所を上り下りしながらピトンを打ち直しリードしていくが、いつ抜けるかビレーしている方も心配
になる。エキスパンディングを何とか越えたが、その上部がフェースになっていてリスが無く登れないと宮川が
言いだした。

 仕方なく、ボルトで前進して様子を見るように指示をする。リングボルト×3でフェースを越えアンダークラ
ックにエイリアンをセットし左のワイドクラックまで達した。キャメロット#3、#4で登りだしたがここもエ
キスパンディングして岩がいつ剥がれてもおかしくない状態らしい。

 3P目をリードし始めて2時間が経過している、時間も16:00になったので今日はここまでとし、下降す
ることにした。とりあえずキャメロットを回収して、ビレーポイントまでクライムダウンするように宮川に指示
をする。

 2P目の終了点と1P目終了点にザイルをフィックスし南壁下部まで下降する。ギアはブッシュバンドにデポ
し下山した。

8月15日(金)曇り

 駐車場 〜 南壁下部 〜 中央ルンゼ 〜 懸垂下降 〜 南壁下部 〜 駐車場
 0600     0700    0730/1230   1245/1330    1430     1500

 今日の開拓は一時中断し、合流したメンバーと一緒に中央ルンゼを登攀する事にした。オールフリーで登攀し
たが中間部は岩がもろい箇所があったので神経を使った。しかし、なかなかの好ルートであった。終了点からは
懸垂下降をする。

 今日は、北東気流のおかげで寒気が流入しているため気温が例年より10℃も低く寒いくらいだった。

8月16日(土)曇り

 駐車場 〜 南壁下部 〜 開拓 〜 南壁下部 〜 駐車場
 0530     0630   0730/1545 1630/1700   1730

 今日も昨日に引き続きかなり寒い。南壁なので通常なら日射病になるぐらい暑いのだがもう秋の終わりの様な
感じだ。

 今日は、有持、原でルート開拓、宮川、青木が<蒼山会ルート>を登攀する事になった。

3P AA2+ 15m (有持) リード/2時間、フォロー/1時間30分

 ユマーリングで2P目の終了点まで登り返し、有持がリードで開拓を開始する。とりあえず宮川が打ったボル
トの手前まで登る。まず、ボルトを使用しないで登攀できるかやってみることにする。

 最初のボルトはナイフブレードが入る極細リスを見つけたので使わなかった。2本目は使用してアブミに立ち
込むと細かいフッキングエッジがあったので、スカイフックをかける。そして右側の怪しいクラックにアングル
を打ち込んだ。3本目も未使用。

 結局、フォローの原がボルト3本とも回収した。再登する際にはボルト1本が必要である。それとアングルは
回収不能で残置してしまった。

 アングルから上部は左にクラックがあるのだが、かなり浮いている状態だったので使用せずに右のリスをネイ
リングし直上、小ハング下を左にネイリングトラバースする。

 小ハング左のフェースにRCCボルト×2、リングボルト×2でビレーポイントを作りハンギングビレーをす
る。ふと横を見てみると、3mほど左にまたボルトラダーがあるではないか。このボルトラダーも開拓しようと
思っていた上部のハングへと続いている。もういい加減にしろと叫びたい気分だ。

4P AA2+ 15m (有持) リード/1時間50分、フォロー/1時間15分

 予定していた上部ハングへ行くためにはボルトラダーの真横をネイリングしなければならない。それはあまり
にもばからしいので、左へトラバースしボルトラダーを横切り、左側にあるクラックとリスをつなげて上部ハン
グの左側までラインを引く事にした。

 バカブーを打ちトラバースを開始する。ボルトラダーを横切る時に1ポイントだけ残置ボルトを使用した。さ
らにトラバースをしていくとリスが無くなってしまった。すると丁度良い場所にフッキングエッジがありスカイ
フック1ポイントで上部のリスにとどいた。

 その後、キャメロット#4、#3でずり上がりブッシュをむしりながらリスを探していく。ピトンの連打で上
部ハングの左側にでた。とりあえずここでビレーポイントをRCCボルト×1、リングボルト×3で作成しピッ
チを切ることにした。

5P AA1 20m (有持)

 ここから上部は登る事は可能だったが、ブッシュとコケが多くクリーニング作業が大変そうだったので、ナイ
フブレード1枚を打ちフリーで左へトラバースし、<蒼山会ルート>のボルトラダーに合流する。<蒼山会ルー
ト>3P目の終了点を今回の終了点とした。

 結局、ルート図にはない予想外のボルトラダーの出現により、<通奏低音ルート>から<蒼山会ルート>まで
のトラバースルートになってしまったが、上級者向きの好ルートに仕上がったと自分では思っている。

 ネイリングが主体なのでリードにはかなりの時間を必要とし、おまけにハンギングビレーになるため、ビレー
シートと膝パットを持参していった方が快適である。

 下降は45mの懸垂×2で南壁下部まで降りることができる。

 今回は、南壁の真夏の開拓ということでかなりの暑さを覚悟していたが、寒気のおかげでビレー中などはカッ
パを着なければ寒いぐらいの気温で、快適に登攀をする事ができた。

 帰宅するとアブミに乗る瞬間の緊張感が思い出され、次はどこへ行こうかと夜な夜な考える毎日である。だい
たい目星はつけてあるので、年内にはあと2本は開拓をしたいと思っている。

<使用ギア>

キャメロット×1セット、エイリアン×下から4サイズ、フレンズ×1セット、クワッドカム×下から4サイズ、
アングル×4、ロストアロー×5(各種)、バカブー×8(各種)、ナイフブレード×8(各種)、スカイフック、
RCCボルト×5、リングボルト×9、ハンマードリル×1、バッテリーパック×3、9mmザイル×2、
11mmザイル×1、シュリンゲ×多数、カラビナ×多数、フォールバック

※ 試登用のボルトはすべて回収した。ビレーポイント用のボルトはすべて残置して ある。再登者はくれぐれ
も ボルトの残置だけはしないで、自分で打ったものは回 収してほしい。

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