マッキンリー/カシンリッジ

日程
2006年5月28日(日)〜6月8日(木)
メンバー
(山岳同人かしまの会)名塚好子、(千種アルパインクラブ)西村秀樹
記録
(山岳同人かしまの会)名塚好子
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


有持さん、ご無沙汰しています。ACMLの皆さん、いつも情報をありが
とうございます。Sueスーこと名塚@山岳同人かしまの会です。
6月にマッキンリーのカシンリッジを登って来ました。遅くなりましたが
報告します。今年のデナリは天候が悪く雪も多いとの事で、ノーマル
ルートからの登頂率も例年より悪かったようです。
カシンリッジは誰もが知っているクラシカルなルートですが、この手の
ルートは期間が必要なわりには、さほどテクニカルではないので、今時
のクライマーには敬遠されているのでしょうか?あまり登っている人の
報告を耳にしません。この報告が今後カシンを登る計画をお持ちの方
にとって少しでも参考になれば幸いです。

カシンルートの5割はアイス技術のルートと感じました。岩登りはジャ
パニーズクーロワールの上部と第1ロックバンドくらいで、ルート全体
の2割程度ではないでしょうか。残り3割が雪稜・雪田・ミックスです。
全体的にはとにかく長いルートなので、体力、精神力が不可欠です。
技術的には岩、アイス、雪の総合力が必要です。まあ、当たり前と言え
ば当たり前ですが、私も含めて昨今のアルパインクライマーは一部の
技術には優れていても総合力となると、どうかなというところがあります
から。

デナリやフォレイカーのあるカヒルトナ氷河はもとより、近くの?(もちろ
んセスナで)ルース氷河周辺にも沢山手ごろなルートがあります。
ヨセミテが今やビックウォールのゲレンデと化しているように、ここも同様で、
他のエリアへ挑戦するスキルを身につけるために、アラスカで技術を磨い
ていくようです。今、日本人でアルパイン最前線で登っているIくんや
ジャンボYくんなんかも来ていました(ロクスノ33参照)こんなスペシャルな
人達は別としても、もっと沢山の日本人クライマーに登りに来てほしいと
感じました。
トポはSUPER TOPOの“ALASKA CLIMBING”があります。私はアンカレッジ
のアウトドアショプで購入しましたが、WebでもPDFを買えるようです。

ルートの詳細はトポでわかるので、行動概要のみを簡単に書きます。

<メンバー> 西村 秀樹(千種アルパインクラブ・愛知)
         名塚 好子(山岳同人かしまの会・群馬)

5/28(晴れ) 準備・高所順応登山・休養を含め17日間が経過した。順応
登山で天気が2日〜3日周期で変化している事がわかった。カシンリッジへ
のアプローチは北東フォークカヒルトナ氷河から入る。この出会いに余分な
荷物はデポしておく。
 最初は平坦な雪原歩きであるが、だんだん雪が深くなりラッセルが始ま
る。ウエスタン・リブ取り付き下からクレパス帯が始まる。リブ取り付きまで
は標識用の竹棒がルートを導いてくれたが、リブ取り付きを過ぎると竹棒も
なくなり、ヒドンクレパスにはまる事が増える。片足はまりは数回、半身まで
落ちたときはさすがにヒヤッとした。まるで地雷原のようなクレパス帯に神経
をすり減らし、ようやくクレパス帯が終わった雪原で幕営。
【タイム】北東フォーク出会8:30〜クレパス帯終了地点の雪原19:00

5/29(晴れ) ジャパニーズクーロワールの取り付きまでは、さらにプラト
ーをひと登りして取り付く、クーロワール下部はオーバーハングしたセラック
になっているので、左から取り付き、右上すること3Pでクーロワールの中に
入って行く。TOPOと違うが、年によって下部形態がちがうのだと思う。
午後の時間帯ということもあり、クーロワールの中は落石が非常に多い。
傾斜は部分的に70度くらいが1、2箇所あるが、他は50度〜60度くらい。
ただ、50mいっぱい伸ばしてもテラスはないので、カッティングして片足ずつ、
足を横にして休める感じなので、ふくらはぎが痛い。
【タイム】幕営地10:30〜ジャパニーズクーロワール取付き13:30〜カシンテラス23:30

5/30(雪〜吹雪) 5・8ミックスを含む岩登りを3Pこなし、両側が切れ落ちた
ナイフリッチを8Pほどこなす。朝からちらちらしていた雪が風を伴い、吹雪と
なる。晴れていれば、このナイフリッジは高度感があり最高の絵になるピッチ
かと思う。ナイフリッジが終わり大セラック下の斜面にビバークサイトを探す。
【タイム】カシンテラス12:00〜大セラック下の幕営地19:00 

5/31〜6/1(雪〜夜間くもり〜晴れ) 昨夜からの雪は朝から断続的に降り
続いている、停滞した方が良いとする私と、少しでも先に進めたいというパー
トナーとの意見の相違で言い合いになる。が、最終的に登ることにする。
第一雪田に出るには立ちはだかる大セラック帯を越えなければならない。
TOPOでは懸垂下降して、大きく左を巻いているが、セラック左端がややハング
しているものの何とか超えられそうなので、ザックを置いてリードする。頭を氷
に押さえつけられながらの、きわどいバランスでトラバースし、ハングの切れ目
からハング上に這い上がり、スクリューを3本打って、ザックの荷揚げをする。
それでも懸垂して大巻きするより早く第1雪田に上がれたと思う。第1雪田を
コンテでラッセルし、第1ロックバンド取り付きのクレパスの中にテントを張る。
他に最適な場所も見当たらなかった。雪は弱くなったり強くなったりを繰り返し
ながらも降り続いていた。寝る準備をしていたところ、21:42頃に、小さな
雪崩が我われのテントを襲った。幸いテントのファスナーが壊れたくらいで、何
ひとつ道具を失うことはなかった。が、その後、仕方なく第1ロックバンドの夜間
登攀に入る。白夜とはいえ、深夜はかなりの寒さ(おそらくー20度〜30度)である。
おまけに岩場のセクションは時間がかかり、ビレイ中に私の指は凍傷になって
しまった。「もう抜けるだろう、もう抜けるだろう」と思いながら、ザックの中に
持っていた羽毛ミトンを使わなかったのが良くなかった。朝方、岩棚に
腰掛けフライを被って2時間ほど休んだ時には指が紫色になっていた。
14:00くらいに、ようやく第1ロックバンドと第2ロックバンドの中間にある、ミックス 

稜に無理やりテントを張って、ひたすら眠る。
【タイム】セラック下幕営地11:00〜第1ロックバンド下(雪崩現場)22:00〜
第1ロックバンド70度ミックス壁(おそらく2:00)〜第2ロックバンド下幕営14:00

6/2(晴れ) 第2ロックバンドはいくつかルートがとれる。私達は岩の間に発達
した急なルンゼを繋げて行くことにした。その為ルートが大きく蛇行する。
労力のわりには高度が上がらない。
【タイム】第2ロックバンド下幕営10:30〜第2ロックバンド上部クーロワール21:00

6/3(晴れ:強風) 第2ロックバンドから第2雪田に抜ける。ここからは技術的
には難しくないが、第1雪田とは異なり、強風の影響で表面がバリバリの雪で、
傾斜もあるので侮れない。第3ロックバンドの裏にある大クーロワールをめざし
第2雪田を大きく右へトラバースする。大クーロワールは斜度50度、高度差300m
で、今年は膝から俣くらいの深いラッセルになり、疲れた身体にはこたえる。
このクーロワールは年によっては蒼氷に覆われ、スタカットで登られることもある
ようだ。
ようやくコルに出たが、ここは耐え難い強風が吹き抜けるところで、岩影を削り
ビバークするが、テントが半分、空中に浮いていた。ロックバンドに入ってから、
この3日間は、2人が横になるスペースが確保できず、座ったままうとうとする程度
なので疲れが取れない。おまけに食料不足と高度の影響が加わり、私の指は
すでに4本の指が色が変わってしまった。
【タイム】第2ロックバンド上部クーロワール9:30〜コル14:00

6/4(晴れ) 風は朝方には少し弱まったが、疲労と寒さでなかなかテントから
出られない。今日こそは登頂するぞ!と気合をいれミックスの稜線を歩きだす。
稜線は支稜をともなうようになり、やがて大きな雪壁が現れる。雪壁上部は傾斜
もあり気が抜けない。まだかまだかと思いながら、さらにミックスの雪稜を40分か
ら1時間進むと、待望のカヒルトナホーンに飛び出した。カシンリッジを登り終えた
事になる。2人抱き合いながら互いの労をねぎらった。
空身でデナリピーク(6194m)をピストンし、一般ルートでハイキャンプ(5300m)
まで駆け下った。
【タイム】コル9:30〜カヒルトナホーン18:30〜デナリピーク19:00〜HC21:30

6/5(晴れ) あわよくば今日中に北東フォーク出会いまで下山できると思い、
気分は上々。だか、下山にかかると、思ったよりも体が疲れていることに気づく。
でも、後は下るだけだから、とのんびりモードである。ところが。メディカルCで
簡単なファースト・エイドだけしてもらい、さっさと下山しようと思って寄ったところ、 

ドクターに 指をドラエモンのように包帯を巻かれ、2人だけで降りるのは許可で
きない。とドクターストップがかかってしまった。翌日レンジャーがアレンジしたガイド
パーティーと一緒に降りることになってしまった。強引に自分たちだけで下山して
レンジャーともめるのもまずいと思い、仕方なく、ガイドパーティーに混ざり、
彼らにアシストされる形となってしまった。今シーズン初のカシン完登パーティー
と気を良くしていたのに、とんだ落ちがついてしまった。
【タイム】HC(C17)14:00〜MC(C14)17:30

6/6(雪〜吹雪) レンジャーステーションの前でマルコ・プレゼリに会う。彼らも 

これからカシンを登りに行くらしい。アラスカは彼らにとっては、良いトレーニング
程度の場所なのだ。大所帯のガイドパーティーの動きは遅い、天気も悪く、
メディカルCより一つ下のC11で泊まる。
注意:現地ではキャンプを標高の高さで呼んでいる。C11は標高11000−foot
【タイム】MC15:00〜C11 18:30

6/7(雪) 思わぬところでアラスカのガイド登山を体験。オヤジ達ばかりの中で、 

紅一点。皆なSueスー。スー。と可愛がってくれる。こんなにもてたのは何年ぶり
だろう。【タイム】C11 12:00〜BC(ランディングポイント)17:00

6/8(曇り) 昼頃、お迎えのセスナにてタルキートナーに帰着。


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