穂高岳/屏風岩/0ルンゼ(単独)

日程
2003年3月8日(土)〜9日(日)
メンバー
(京都雪稜クラブ)中川一
記録
(京都雪稜クラブ)中川一
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


山行報告書
山行名・穂高岳・屏風岩0ルンゼソロ
参加者・中川 一
期間・03年3月8日〜9日
参考資料・日本登山大系7
地図・2万5千図、穂高岳、上高地

感想・報告
今回は、屏風ソロ。力強いパートナーの岡村さんもいない。不安だらけで7日の午後9時
前に京都を発つ。名神・中央・長野自動車道と高速の継続をして松本ICまで。凄い雪で
ある。沢渡まで、ゆっくりと進んで行く。道はかなりの積雪で真っ白であり、時々突風で
車体が揺れる、、、、、、、明日からの不安がヒシヒシと込み上げてくる。中ノ湯から釜トンを
抜けたらラッセルだろう。色々と考えているうちに、沢渡アルピコタクシーの駐車場に到
着した。丁度、戸の締まる快適なバス停があったので、ここで仮眠。出発前の着替えも寒
さを感じずに済みそうである。
3月8日・吹雪、雪
昨夜は、夜通し吹雪いていた。バス停の戸もガタカダと鳴り続けだった。外に出てみると、
道路も民家の屋根も真っ白である。6時前、予約しておいたタクシーが来てくれたので乗
り込んで、中ノ湯まで。外気温は、マイナス5度。
身支度を整えて、出発。釜トンの中は暖かく、道も氷化しておらず快適に歩けた。この「悲
しい歴史」の詰まったトンネルも、半分くらいは新しくなっており工事車両や天井を這う
大きな排気菅が通っており、昔のようなイメージが無い。トンネルを出ても、相変わらず
雪は降っている、もちろんトレースはない。最初は、踝位までであったが、大正池の前あ
たりから、膝下くらいになってきた。ツボ足ではしんどいので、新しく買ったMSRのデ
ナリアッセント、スノーシューを履くことにする。これで、なんとか不快なラッセルから
少し解放された。雪は降り続く、昨日のものと思われるスキーの跡が時々出現してくる。
時々、自分のつけたスノーシューの踏み跡を見つめて独りなんだと思うと、不安になって
くる。何が不安なのだと聞かれたら、正直に一言「怖いから」と答えるだけだろう。
3時間近くかかって河童橋到着。ここで、スキー跡の主の夫婦に出会う。おじさんは、長い
スキー、おばさんは、ショートスキーを履いておられた。昨夜の雪の状態を聞くと、「昨日
から40センチくらい積もり、夜にテントの除雪をした」とのこと。記念撮影の依頼をされ
てから御別れ。小梨平までは、スキー跡を外れると膝上までの積雪。
あまりにも雪がきついので、小梨平でテントを張って休息と仮眠をすることにする。コン
ロを焚いて、水作りを開始。6リッター位作って、時間をかけて2リッターくらいを呑んだ。
外はテントを揺らすくらいに吹雪いているので12時位まで、仮眠することにした。
昨夜の運転の疲れもあるためか、良く眠れた。外気温、マイナス8度。
12時過ぎに目が覚めた。雪は少し弱くなり、周りに人の風を感じる。覗いてみると、何張
りかのテントが設営されている、雰囲気からみるとガイドさんのツアーのようである。
再び湯を飲んで、ラーメンを食べて横尾に向って出発。明神、徳沢あたりまでは、雪が被
っているものの、トレースはついている。しかし、なかなか歩調は上がらない。晴れてい
たら、周りの山々を眺めながら楽しくハイキング気分で御気楽と言った感じでだろうが、
しんどい。徳沢からは、雪原と化した広い梓川の河原を歩く。風雪は強く、頬と指先がジ
ンジンと冷たくなってくる。5時間近くかかって横尾に到着したころに、辺りは暗くなって
きた。横尾避難小屋に立ち寄ると、弱気になり「御帰りモード」になるので、寄らずに横
尾大橋を渡り取付きを目指す。何年も屏風に足を運んでいるが、初めて屏風を登った時の
夏より、美しくもあり怖く目に映った。橋を渡ってからの樹林帯をぬけて、河原に飛び出
した。河原を渡り取り付きを目指すが、樹林帯の急登のラッセルは深く腰から胸くらいま
であった。毛細血管が身体を走るように、樹林の中をトロトロとラッセルを繰り返して、
0ルンゼの押出しに到着。そこは、デブリに覆われていた。デブリには、新雪が積もり歩
きにくそうである。外気温、マイナス12度。
弱層テストを実施すると、40から50センチのところから雪円柱は滑り落ちた。ヘッド
ランプを点けて、ハーネスに50Mのザイルを半分に折り返し25Mにして結んだ。これ
は、雪崩に埋没した時に発見してもらう時の私自身の目印に、、、、。もちろん、ビーコンは
装着済み。0ルンゼ奥壁と称されるところまでは、ラッセル、ラッセル。雪稜クラブには、
「ラッセル王子」がおられるが、私の場合は「屏風岩警備隊」とでもしておこうか。
ルンゼは、奥壁まで一直線に突き上げているが、途中で一旦幅が狭くなる。そして、登り
続けると元の幅に戻る。黙々と続くラッセルであるが、上部に行くにしたがって雪は締ま
ってきて、順調に高度を稼ぐことができた。時々、上部から、側からサラサラと雪が流れ
てくる。その度に私の足元は埋まっていくが、大きくは雪崩れないようである。しかし、
引張っているザイルが重くてしかたない。敗退の理由を考えつつ登り続けて、奥壁の基部
らしき所に到着。トポもルート図もないので、正確な把握を情けないがすることが出来な
い。月明かりもなく乏しいヘッドランプの灯りだけで、周りを見渡すと登ってきた一条の
白ルンゼが、下部の樹林帯へと帰路を示している。
ここからは、奥壁の左側の雪壁をザイルを外して登ることにした。快適とは言えないが、
新雪はあるものの稜線まで簡単に抜けることができた。稜線は、バラバラと木があるだけ
で雪が降っているため展望もなにもないが、やっと抜けたと言う安心感だけがあった。ラ
ッセル、雪壁を登るだけであったが初めてのソロ夜間登攀、感動。アルパインの本道から
外れてしまうが、私のパワーでは屏風の頭まで行くことができない。後味が悪く、未練が
あるが下降しなくてはならない。少し情けなくブルーな気持ちになるが、今の私の実力で
あれば、こんなもんである。行動食を食べて、水分補給して下降開始。雪壁を一歩一歩
ビビリながら下降するが、少し緊張感が抜けてきたのかメガネの曇りが気になってしまう。
なんとか、奥壁の基部に到着。ここで、またザイルを折返してハーネスに結び直す。今度
は、ザイルを引張りながら降るのである。先程のラッセル跡は、降雪の為にかすかな跡を
残すのみであった。帰路の心配は、下降にザイルを引張ることにより、雪崩れないかと言
うことであった。ヘッドランプの電池と電球を交換して下降開始。ザイルは、ダンゴにな
るが私の後を順調に付いてくる。しかし、時折ダンゴになって先行していく。何度か転倒
したが、無事に河原に到着。登攀時間、約7時間。
ここからは、ヘロヘロになって小梨平まで帰ったのは、午前4時だった。やっと、帰って
きた。小梨平の木々を通る風音が、ゴオーと鳴ってテントを揺らしている。
テントに入って、コンロを全開で焚いて暖をとって、ラーメンとしるこをすすった。身体
が温まると、手指がジンジンと痛んでくる。6時まで仮眠してバリバリに凍てっいて嵩張
ったテントをザックに押し込んで、小梨平から中ノ湯を目指した。釜トンに到着すると、
トンネルの奥からは「コッコッ」とストックを突く音や、「ドスドス」という靴音が聞こえ
てくる。このトンネルを歩いたら下界、街の風を感じるだろうと思い、全身に冷たい山の
空気を吸い込んでトンネルに足を踏みいれた。ドンドンと人が登ってくる、そして、、なん
となんと、50個くらいのヘッドランプを点けた集団が押し寄せてきた。多分、ツアーの
御客さんだろう。これが、クライマーの集団だったら嬉しいのであるが、、、、。
中ノ湯の売店が開いていたので、ラーメンとコーヒーで2度目の朝食を摂って、一日に4
本しかないバスに乗って沢渡に到着した時は、ホンマに帰ってきたと感じた。

登攀を終えて
下山後の暖かいメールを頂いたみなさんに、御礼申し上げます。
ありがとうございます。
冬季の穂高屏風岩と言っても、0ルンゼは大部分がラッセルでした。屏風でも、ワンラン
ク下のもでしょう。また、0ルンゼと言っても知らない人が大半かと思います。資料を探
しても、日本登山大系の概念図に記されているだけなので、、、。「そしたら、なんで、そん
なとこ登るねん」と思う人も多いと思います。
私の答えは、「登りたかった」からとしかないが、屏風岩中毒、屏風岩に恋する、、ことを
御存知の方なら少しは判ってもらえると思います。
今回は、岡村さんと都合がつかず、ソロで挑戦することにしました。信頼できる力強いパ
ートナーがいないのは、本当に不安でした。最高のパートナー、困難な場面でも切り抜け
られる安心感、長年一緒に登っていると色々と伝わってくるものがあるのです。
正直に言うと、ホンマに「怖かった」。何度も、敗退の理由を考えたりしたが、ここで帰っ
たら立ち直れない状態になることは一目瞭然だったので、気合で前進。
最近、なんとかしてオリジナルな自分の登攀スタイルを作りたいと思い始めたのでした。
情報の無いルートで、自分の今まで経験で学んだ力を試したかったのです。また、反面で
冬季のタイトルが欲しかったのも恥ずかしい、隠せない事実です。また、最近はクラブで
も、アルパイン志向が一部の会員の中で上昇してきています。記録を聞いていると、名の
ある素晴らしいルートばかり、、、、。アルパイン志向、嬉しいことです。ガンガンと登って
下さい。私は、いつも変な登攀ばかりしていますが、今回の登攀も「こんな楽しみ方があ
ったんだ」と感じて頂けたら嬉しく思います。
今年の夏の屏風、滝谷に、みなさんのコールが響き渡ることを楽しみにしています。

                                  時雨山房

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