八ツ峰/Y峰/Cフェース/剣稜会・チンネ左稜線

日程
2002年8月10日(土)〜12日(月)
メンバー
(神戸市役所山岳部)岡島、他4名
記録
(神戸市役所山岳部)岡島
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


 皆さんこんにちは、岡島@神戸市役所山岳部 です。
 剣岳の八ツ峰とチンネで、岩登りを楽しんできました。
 かなり遅く&長くなりましたが、報告します。

 今回行った所は、スポーツクライミングに慣れた目からすると、技術
的には何てことのない所でしたが、濃霧に巻かれながら足元が何百mも
切れ落ちている場所に立つだけでも精神的な重圧は相当なもので、やは
りスポーツクライミングとアルパインクライミングは違うという感を強
くしたものでした。


 【 日 程 】2002年8月3日(土)〜6日(火)
 【 山 名 】剣岳 八ツ峰・チンネ
 【 人 数 】5人
 【 コース 】8月3日(土) 室堂 ― 熊の岩
         4日(日) 熊の岩 ― 八ツ峰Y峰Cフェース剣稜会
              ― 八ツ峰上半縦走 ― 熊の岩
         5日(月) 熊の岩 ― チンネ左稜線 ― 熊の岩
         6日(火) 熊の岩 ― 室堂


● 8月3日(土) 晴

【 室堂 8:00 ― 10:10 別山乗越 10:30 ― 剣沢キャンプ場 ― 
  11:40 長次郎谷出合 12:10 ― 15:30 熊の岩 】

 今年の残雪の具合は平年並みだそうで、剣沢キャンプ場の下からは雪
渓上を下っていきます。途中、武蔵谷出合のあたりで雪渓が切れて滝が
露出していたので、そこだけ右岸の夏道を歩きます。
 長次郎谷は、今年の5月4日夜に八ツ峰T峰の側壁が崩壊して落ちて
きた土砂が、谷の入口を埋め尽くしています。まるでここには入るなと
言わんばかりに土塁で塞いでいる状態です。通過に支障はありませんが
、ガレ場を歩くのと同じで少し歩きにくいです。次の冬にはこの土砂も
雪の下に完全に埋もれてしまうのでしょうか。土砂が終わって再び雪渓
の上を歩き出します。

 熊の岩にやっと到着。岩と言ってもかなり大きい地形で、真中を割っ
て沢谷が走っています。幕営適地は、岩の上の平坦部の雪渓が解けて、
地面が露出した場所です。ここへは、右側の雪渓から大きく回り込んで
たどりつきます。この時は、沢谷の左右両側に、テントが6張ほど張れ
る場所がありました。私たちの他には2パーティー。水は幕営地からす
ぐ、先述の沢谷から得られます。便所は適当な所に隠れてするしかあり
ません。
 ところで、ここを根拠地にすることが多い山岳ガイドの森中さんとい
う方がおられます。間接的に聞いた話では森中さん曰く、「ウンコする
のは仕方ないけれど、せめて尻を拭いた紙は持ち返ってください」との
ことです。また森中さんは、シーズン末にここを清掃しておられるそう
です。私たちも最終日に、せめて周囲のごみ拾いをして帰ることにしま
す。


● 8月4日(日)【八ツ峰Y峰Cフェース剣稜会・八ツ峰上半縦走】
          早朝:濃霧 → 午前:濃霧ときどき晴 → 午後:雷雨

【 熊の岩 5:30 ― 5:50 取付 】
【 Y峰Cフェース剣稜会ルート 6:30−9:30 】

 Cフェースの取り付き部直前でちょっとだけ残雪のブロックをよじの
ぼります。取り付き部は地面が露出しているので、ここで準備します。
濃霧になり小雨もパラつく中、登攀開始。

 1ピッチ目・2ピッチ目、簡単です。特筆なし。
 3ピッチ目、登っているうちにだんだんと晴れてきて、長次郎雪渓が
はるか下に見えるようになります。ホールドも残置支点も豊富、ルンル
ンと気分よく登れます。通常はテラスまで登ってピッチを区切り、ハイ
マツで確保支点を取るのでしょうが、一応その少し手前、フェースの左
端にハーケンが豊富に残っている所で区切ります。この間、件のガイド
の森中さんパーティーがやってきて、すごい速さで登ってきます。3人
1組でモタモタしている私のパーティーは、あっさり先を譲ります。
 4ピッチ目、ナイフのように細いリッジを伝って行く一番高度感が出
る場所です。私のパーティーは途中から水平クラック沿いに右側にトラ
バースしましたが、あくまでリッジを忠実にたどり、左にスパッと切れ
落ちたCD間ルンゼを下に見ながら登るのが面白いそうです。5ピッチ
目、難なく終了。

【 終了点 10:00 ― 八ツ峰上半縦走 ― 12:50 池ノ谷乗越 】

 このころから再び濃霧。踏み跡をたどっていくと、Y峰の2つ目の頭
のすぐ手前から、三ノ窓側に5mほどのクライムダウン。さらに少し行
くと再び10mほどのクライムダウンです。念のため懸垂下降します。
降り立った所からは、三ノ窓側の山腹に明瞭な巻き道が水平に続いてい
ます。尾根を忠実にたどることもできますが、ここは巻き道を急ぎます
。

 [峰を半分ぐらい巻いた所、左の山腹に岩小屋があるところで、道が
不明瞭になります。少し先から左に向けて、ルンゼが[峰と八ツ峰の頭
との間に突き上げていますが、暗くて濡れて段差も大きく、どうもルー
トではないような気がします。右に向けての先は、不明瞭な踏み跡が水
平からやや登り気味に続いており、ロープを固定して張っている所もあ
ります。どうやらチンネに続く踏み跡のようですが、八ツ峰の頭に至る
ルートはありそうでなさそうな感じがします。
 大事を取って、[峰を尾根沿いに越えることにします。Z・[のコル
から少し進んだ所から、ハイマツ交じりの浅い凹角状の部分を登ってい
くのですが、岩登りのU級ぐらいはあります。岩登り初心者がいれば
ロープを出すべきだと思います。
 [峰からは2回の懸垂下降+クライムダウン少しで長次郎谷右俣の最
上部、池ノ谷乗越のすぐ下に出られます。

 何やかやと時間を食い過ぎたので、この先剣岳本峰まで往復する予定
だったのをあきらめ、さっさと帰幕することにします。それにしても、
森中さんは「Y峰から本峰まで2時間」と言っていました。やっぱり先
ほどの「暗くて濡れて段差も大きいルンゼ」を登るのが正解だったので
しょうか?
>どなたかご存知でしたらお教えください。

【 池ノ谷乗越 13:50 ― 長次郎谷右俣 ― 14:30 熊の岩 】

 長次郎谷右俣は、一応池ノ谷乗越まで雪が残っていましたが、最上部
は何本ものクレバスで完全にズタズタになっていました。しかし左岸に
広いシュルンドが開いており、その底のガレ場を通って降りて行けま
す。途中で2個所、高度差3mぐらいと5mぐらいの岩壁が現れ、慎重
に下ります。谷間が広がるあたりから下は、雪渓を完全に横切るクレバ
スはなくなったので、雪渓上に登ってアイゼンでスタスタ下ります。
 帰り着く頃から雨が降り出し、ほどなく雷雨。夜は断続的にたたきつ
けるような雨。そういえば隣のテントの3人パーティーが、今朝早くチ
ンネに向かったまま帰ってきていません。留守番の1人が少し心配そう
です。一応ビバーク装備は持って行ったとのことですが、緊急の際はこ
ちらも救助に加わる旨、一応申し出ておきます。


● 8月5日(月)【チンネ左稜線】早朝:濃霧 → 晴ときどき濃霧

【熊の岩 5:00 ― 池ノ谷乗越 ― 6:30 三ノ窓 6:40 ― 7:00 取付】

 雨は止みましたが、Y峰から上は濃霧がかかっています。
 長次郎谷右俣は昨日下ってきてルートが分かっていたおかげで、すん
なり池ノ谷乗越までたどり着きます。隣のパーティーは前々日にここを
偵察したけれどルートが分からず、結局Z・[のコルからの巻き道ルー
トを選択したとのことでしたので、昨日の予定変更は結果としてよかっ
たわけです。まさに禍福はあざなえる縄のごとしです。
 池ノ谷ガリーは大石小石がガラガラで、落石しないように慎重に下り
ます。やがて濃霧の中、隣の3人パーティーが上がってきました。昨日
は巻き道ルートの先がなかなか分からず、チンネに取り付いたのが
12:00。雨の中、左稜線を登り、嵐の中、チンネの頭でビバークしてい
たとのこと。なんともはや…。
 なおもガリーを下りに下り、右に現れた草付きをちょいと乗っ越して
ゆるい草付きの踏み跡を下ると、すぐに三ノ窓です。テントが2張。雪
渓を横切って取り付きへ。すでに2パーティーが準備中です。ちょうど
左稜線取り付き部直下に広いクレバスができていましたので、その底で
ゆっくり登攀準備です。

【 チンネ左稜線 8:15−14:30 】

 取り付き部のテラスの直下を左から巻いてテラスに登り、登攀開始。
今日の左稜線は、先行2パーティー+私たち2パーティーの計4パー
ティーだけのようです。ちょうど濃霧が晴れ、素晴らしい快晴となりま
す。

 1ピッチ目、垂直に近いクラックないし凹角です。昨日の雨で濡れ濡
れに濡れています。おまけに日陰で、いやな感じです。滑りそうになる
のを必死でこらえながら登ります。2ピッチ目までつないで登ろうと
思っていましたが、先行パーティーがここで区切っていたのでこちらも
区切ります。順番待ちをしていると、先行パーティーが落石。私のパー
ティーのフォロワーの頭上で壁面にぶつかり、砕けてバラバラと降りか
かります。幸い事無きを得ます。
 2ピッチ目、やっとひなたの傾斜の緩いフェースに出ましたが、なお
もびしょびしょに濡れています。
 3ピッチ目、まだまだジュルジュルに濡れた斜面が続きます。乾いて
いれば、どこに手足を置いても摩擦がよくきく何てことない斜面なので
しょうが、これだけ濡れていれば難度倍増です。おまけに支点の少なさ
が恐怖に拍車をかけます。左稜線は、人気ルートにしては全体的に残置
支点が少ないのですが、特にこのピッチは後半はまったく支点を取らず
に登ります。一応ハーケンはあるのですが、深く埋め込められ過ぎてい
て、支点を作るのに時間とエネルギーを消耗するのです。念の入ったこ
とに、終了点は浮き石の多いテラスというオマケ付きです。

 4ピッチ目、右に向けて大きな凹角を登ります。ほんの10mほど進
んだ所の先でルートが大きく回り込んでいたので、ロープの流れが悪く
ならないように区切ります。どうも市販のルート図とは違う区切り方を
しているような気がします。
 5ピッチ目、右から左へ回り込んで草付きを登り、ピナクルの裏側へ
入ります。
 6ピッチ目、フェースを登れば突然目の前にドーンとこの先の左稜線
の全貌が現れ、「おおっ」とうれしくなります。
 7ピッチ目、ハイマツに覆われた水平な稜線をコンテで、フェースの
基部まで進みます。

 8ピッチ目、やっと念願の乾いた岩肌を堪能できるようになります。
手がかりは豊富、硬い岩をグイグイつかんで快適に登っていきます。
やっぱり岩登りはこうでないとね! 右に左に、チングルマ・イワギキ
ョウなどの高山植物が次々に現われ、実に気分よく登攀できます。しか
し確かに岩は硬いのですが、硬い岩ごとグラッと動く所も結構あります
。フェースの途中で区切ります。
 9ピッチ目、なおも登り続けてフェースの頭に出ると、目の前には
打って変わって、ピナクルの連続する異様な光景が現れます。
 10ピッチ目、その異様な光景の中を、ピナクルの頭から頭へと進ん
でいきます。技術的に特に難しいことはありませんが、左右はスッパリ
と切れ落ちているうえに支点は少なく、心細くなってきます。

 ピナクルが終わると、このルートの中間点、T5(5番目のテラスの
意味か?)です。すぐ目の前に、ルート中最難とされるハングがありま
す。まだ2つ前のパーティーが登っていましたので、ここでゆっくり休
憩&観察…しているうちに、いつの間にやら周囲は再び濃霧に巻かれて
きました。たちまち太陽が隠され、あたりが暗くなり、おまけに冷たい
風がビュウッと吹いてきて、何やら雨らしきものまでパラッと降ってき
て、今朝の隣のパーティーの話を思い出してしまい、もう気分は萎縮し
まくりです。
 11ピッチ目、縮む心にムチ打ち、気合いを入れまくって出発です。
支点が1mおきぐらいにあるので、安心できます。白いシュリンゲが垂
れ下がっている薄いハングの左上の角を持ち、右手を伸ばして隠れたガ
バをつかむと、実にすんなり突破でき、拍子抜けするぐらいでした。む
しろ問題だったのはこの先の確保点までで、ロープの流れは悪くなって
重いわ、ヌンチャクをここまでで使い過ぎて残り数がギリギリだわ、そ
うでなくても支点は急に少なくなるわ、風はますます冷たく吹いてくる
わで、結構恐い思いをしながら登りました。

 12ピッチ目、フェースを登り切って少し進み、確保支点が取れる鞍
部のテラスまで降りようとすると、足元になぁ〜んにもない箇所を一瞬
越えねばならぬのを発見。えーかげん緊張感張り詰めどおしで嫌になっ
てきます。
 13ピッチ目、フェースを登ると、またしても心のすくむ両側スッパ
リピナクル連続の図です。しかも残置支点はほとんどナシ。ピナクルも
大きすぎて、シュリンゲを巻くのに手間がかかります。ええい、登れば
いいんでしょ、登れば……とブツブツ文句を言っていると、市販のルー
ト図より長めに進んだようです。
 14ピッチ目、なおもピナクル連続です。濃霧のおかげで切り立った
下がどうなっているのか、何も見えません。でもかえって底無し沼のよ
うで、空恐ろしくなります。チンネの頭のすぐ手前で区切ります。
 15ピッチ目、易しいトラバースで終了!やった!やっと終わった!
頂上は細長く平たい場所になっており、4〜5人程度はゆっくり休めま
す。「日本のクラシックルート」(山と渓谷社)に写真で出ている最高
点のピナクルは、その一角にあります。時折濃霧が流れてはのぞく、深
く濃い青空がなんだか心に染みます。

 結局、T5の核心部なんかより、出だしの濡れ濡れ部分と、終わりの
方のピナクル部分が一番恐かったです。天候による岩の状態の変化と高
度感が恐かった、というところでしょうね。

【 チンネの頭 14:50 ― 池ノ谷乗越 ― 15:40 熊の岩 】

 チンネの頭から三ノ窓の頭との間の鞍部までは、登ってきた方から見
て左側に歩いて下ります。鞍部には、森中さんたちガイド仲間がビバー
ク用に整地したという場所があり、4人用テント1張程度の広さがあり
ます。そこから池ノ谷ガリーまでは小石・砂混じりのボロボロのクライ
ムダウンです。細い谷間を通過して左にトラバース、懸垂下降用の支点
をこれもそのうちボロッといきそうやなあと見やりながら、非常に気を
使いながら下ります。初めて行った人は、ルートを間違えたのでは? 
と思うかもしれないくらいに荒れています。
 池ノ谷乗越まで登り返すと、長次郎谷側は素晴らしく晴れ渡っていま
す。時間が早ければ剣沢キャンプ場まで撤収しようと思っていましたが
、あきらめて熊の岩でもう1泊。


● 8月6日(火) 晴ときどき濃霧
【 熊の岩 6:10 ― 6:50 長次郎谷出合 7:00 ― 剣沢キャンプ場 ― 
  9:50 別山乗越 10:10 ― 11:30 室堂 】

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