同志会直上ルート

日程
2001年7月15日(日)
メンバー
(山岳同人マーモッット)木村保、佐藤達也
記録
(山岳同人マーモッット)木村保
写真
なし
ルート図
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<山 行 記 録>


一の倉沢烏帽子奥壁「同志会直上ルート」
2001年7月15日(日)晴れ後雨(夕立)
メンバー:木村 保、佐藤 達也 (山岳同人マーモッット)
出合い5:15 取り付き6:45〜7:15 終了15:10 
取り付き16:30 出合い17:45

昨年の記録であり、最後のチムニーをエスケープしているので恐縮ですが、あまり再 
登の記録を見ないので参考になればと思い記録を送らせていただきます。
猛烈なランナウトで有名なこのルートですが、たしかに全ピッチを通して少なく(平 
均して1〜2本)、初登から20年を経過しているため、各ピンの信頼性も低下していま
す。さらに現在市販され ているトポ(日本の岩場)及び過去に出版されたルート図集
に書かれているラインは、実際のルートとは異 なっていると思います。

(詳細は後記をお読み下さい)
パートナーの佐藤は下山後に一言「あのルートに10パーティ行ったら1パーティは死 
ぬな・・・・」そんなルートです。

取付きは、南稜テラスへのアプローチの途中からで、鎌形ハング右下10m位の小レッ 
ジ。帯状ハング下のフェイスが左右にオフセットした浅いコーナー状になっており、
これが目印になる。こ の一段下が取り付きだが、ビレイポイントは見つからなかっ
たので自分でハーケンを打つ。

1P 帯状ハング中央の張り出しが小さくなった部分に残置が見える。これを目標に 
浅いコーナー状を登る。コーナーの出だしにハーケンを1本打つ。ハングは見た目よ
り簡単で、残置か ら右よりに越え、草付きフェイスを直上。テラスまでほとんどノ
ープロ。(オリジナルのビレイポイン トが判然としないので、ディレッティシマの
テラスまで伸ばした)・

2P テラスから右上気味にスタートし、草付きの凹状フェイスを登る。変形チムニ 
ーの左下方、草付きバンドの下5m位のテラスでビレイ。ディレッティシマのビレイ
点のすぐ横にな る。、+

3P テラスから3mほど上にもビレイポイント(草付きレッジ)がある。バンドに 
出るまでの数mが濡れていて悪い。バンド上の太い灌木にランニングを取り、かぶり
気味の壁を左へトラバースす る。草付きの浅いコーナー状に残置(ハーケン)がある。
トポではここから直上するように描かれているが、草付きが多く不安定そうなので、
更に左へトラバースする。手も足も悪い。特に足は草付きを足で掻き分けホールドを
探さなくてはならない。とてもバンドなどと呼べる代物ではない。フレーク状のカチ
ホールドに一本打ち、直上しようとしたが草付きでホールドが隠れてムーブが読めな
い。結局、この左横から回り込みボコボコしたフェイスを直上し、ダイレクトルート
の4ピッチ目に合流した。大テラスでビレイ。・+

4P 大テラスの左手にある急なスラブ状フェイスに取り付く。ここは南稜フランケ 
のバリエーションラインと重複する。(トポでは南稜フランケはバンドを左へトラバ
ースするように描かれているが、ここを登っても合流できる)左のカンテを使い5m
程でバンド状レッジへ(残置2本有り)。ここから右上に見えるカンテラインを目指す。
細かいホールドを使い、右のカンテライン目指してトラバースする。出だしと、カン
テ下端にハーケンを打つ。カンテの下はハングして大テラスまで切れ落ちており、傾
斜も強く高度感がすごい。カンテを回り込み、細かいが安定したホールドで直上して
いくと残置(ハーケン)がある。さらに右上していくと、白い三角形の小フェイスの
下に出る。安定した草付きレッジに立てるが、ピンはなく足下の岩に下向きに気休め
に一本打つ。この小フェイスは意外に悪い。草付きの凹状へと吸収され、リングボル
トが一本打たれた安定したテラスに出る。(私はこのボルトを見落とししてしまい、
登りすぎてYCC右ルートを詰めてしまった。セカンドの佐藤に一段登ってもらい、
なんとかYCC右ルートのビレイポイントに辿り着いた。ヲ-

5P 木村が上がりすぎてしまったので、このピッチは佐藤が半トップ状態でリード 
する。木村が通り過ぎたテラスから草付きのルンゼ状フェイスを直上する。10m程で
右側壁がカンテ状になる。浮いた岩と草付きに注意しながら右上していくと傾斜のあ
る草付きフェイスとなる。悪いトラバースで奥壁ダイレクトの5P目(フリー化され
た部分)の終了点に出る。トポでは大チムニーの下のテラスに出るはずだが、どうも
おかしい。(このピッチの疑問点については、後述するのでご参照下さい。)・+

6P テラス(小チムニーの下)から左上部を偵察するが、とても登れそうなところ 
がみつからない。結局奥壁ダイレクトの6P目(チムニーが連続するピッチ)を登り、
大チムニー下のテラスに出た。

7P 期待していた大チムニーだが、自然に帰ってしまっていた。苔と泥と草付きに 
覆われ、雨具でも着けないと泥だらけになってしまうだろう。せっかく大きめのカム
類を担いできたのに残念だ。時間も押して雷も近づいて空模様も心配になってきたの
で割愛することにする。次回はワイヤーブラシも忘れずに持って、掃除して登ってみ
たい。雷様に追い立てられながら奥壁ダイレクトを2P駆け登り終了する。南稜テラス
に戻ったときには、雨が降り出してしまい、テールリッジの下降は悪かった。

<後記>
 このルートは長年登ってみたいと考えていたルートの一本だった。しかし、トポと
実際のラインが異なっている部分があったので、ここに報告並びに私見を述べておく。

 1P,2P目は、ほぼトポ通り。ルートを読める人間なら、まず間違えることはない
だろう。3P目は自分が一番苦労したピッチだ。トポではバンドに出て左へ少しトラ
バースした後、直上するように描かれているが、草付きが増えていて、登れる状態で
はなかった。(季節によっては可能かも?)また、保科氏のフリー初登時の記録では、
草付きバンドにボルトがあることになっているが、ハーケンだった。(註1)

 4P目はテラスから直上するように描かれているが、実際はテラス左手の急なスラ
ブ状フェイス(幅は狭い)から取り付き、レッジから右上していくのが正しいライン
と思われる。大テラスの上はハングしており、ボルトが一本残置されている。これは
大氷柱を初登した勝野・菊池パーティが打ったボルトと思われる。(註2)

 また、保科氏の記録では終了点のテラスにボルトが二本あることになっているが、
私の見逃した一本しか見あたらなかった。(草付きに隠れていたのかもしれない)
 5P目はトポ(日本の岩場)では6P目の大チムニーの直下に出るように描かれて
いるが、実際は奥壁ダイレクトに合流している。ただ、同ルートが連続する2つのチ
ムニーのうち、最初の小チムニーを右から超えるのに対して、小チムニーをダイレク
トに登り、次のチムニーの下でピッチを切るのが正しいラインと考えられる。高度か
らみてもYCC右ルート7P目終了点のテラスは、同志会の大チムニーよりかなり低
く、古い資料でも奥壁ダイレクトに合流すると書かれている。(註3)

 6Pは登っていないのでなんとも言えないが、チムニーの上は草付きの凹状が広が
り泥と水が流れ込む形状になっており、湿っていることが多く、苔も発生しやすいと
考えられる。 掃除しないで登ろうとすれば相当汚れるだろう。もし、このルートを登
ろうと考える方にアドバイスするならば、ハーケン、ボルトは絶対に持っていった方
がよいと思います。このルートは比較的新しいルートですが、初登からすでに20年以
上経過しており残置の一部は老朽化しているものが見受けられます。(手で引っ張れ
ば抜けそうなものもあります)
 今回自分で打ったハーケンは全て回収してあります。季節的には、草付きが安定す
る梅雨明け以降から初秋までだと思います。壁が乾いていること絶対条件です。
 技術的には、ディレッティシマやダイレクトがフリーで楽に登れれば問題ないと思
いますが、恐ろしさはちょっと比較になりません。トップの墜落は致命的です・・・
  
 註1:「岩と雪」77号116pCHRONICLE「谷川岳一ノ倉沢烏帽子奥壁同志会 直上ルート」
 註2:「岩と雪」87号「谷川岳一ノ倉沢烏帽子奥壁大氷柱」
 註3:註1及び「谷川岳の岩場」(山と渓谷社)67p「同志会直上」
   その他参考文献
   日本登山体系「谷川岳」 白水社刊 57〜58P「烏帽子沢奥壁同志会直上ルート」
   クライミングジャーナル23号 リメンバー・ザ・一ノ倉 52P 「烏帽子沢奥壁 
   のフリークライミング」
   「岩と雪」118号付録「谷川岳ルート図集」49P「同志会直上」

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