北穂高岳/滝谷/C沢左俣〜C沢左俣滑降

日程
2002年3月28日(木)
メンバー
(ARIアルパインクラブ)有持真人、藤川勝人
記録
(ARIアルパインクラブ)有持真人
写真
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ルート図
なし

<山 行 記 録>

<日時>   2002年3月28日(木)日帰り
<場所>   北穂高岳/滝谷/C沢左俣
<メンバー> ARIアルパインクラブ/有持真人、藤川勝人
<使用ギア> FREE TREK(旧型)
       コフラック/バーチカル(プラブーツ)
<行動> (全行程)15時間10分 (登攀)6時間30分 (滑降)45分
新穂高(02:05)〜滝谷出会(05:15/05:45)〜稜線(12:15/13:00)〜
滝谷出会(13:45/14:15)〜新穂高(17:15)

<記録>
 最初は、3月26日〜28日で北鎌尾根を登攀して、槍ヶ岳の山頂から滑降する
予定であったが、26日〜27日の気圧の谷の通過で大雨となってしまい、計画は延
期となってしまった。

 各種気象データを見ると、28日は天候が回復して、午前中は寒気が残りそうだと
判断できたため。槍ヶ岳の次に計画していた、「滝谷/第4尾根〜B沢滑降」の日
日帰りアタックに変更する事にした。

 雪崩の巣である滝谷を出会から登っていくため、今の時期では気温の高い日のアッ
タックは雪崩に巻き込まれる確率が高くなるため危険が大きい。しかし、28日は気
圧の谷の通過後に弱い寒気の流入があり、午前中一杯は比較的気温が低くなって雪が
しまり、雪崩の危険が少なくなると予想できたため滝谷アタックに出発する。

 自分なりに決めたアタックの条件としては、滝谷出会で気温が−5℃以下であること、
出会での雪の閉まり具合が深いところでもスネ以下であること。合流点手前のゴルジュ
帯を気温が上昇するまでに通過する事。日が陰るとアイスバーンになってしまうため、滑
降開始が遅くても14:00以前になる事。第4尾根を登攀するためには、取り付きのスノー
コルに09:00までに到着する事と決めて、条件をクリアできない場合には適宜、ルート
の変更をして行く事にする。

 新穂高の駐車場に着いて02:05に出発する。今日は14夜と言う事もあり、月が
雪山を照らし出して幻想的である。雪が少ないと思っていたが結構雪が多く、林道の
ゲートから先は雪上歩行となる。

 気温が低いため、雪も適度にしまっていて歩きやすい。ノンストップで滝谷出会まで
歩く。05:15に出会着。所要3時間10分。

 出会での気温は−10℃とこの時期にしてはかなり低い。気圧の谷の通過後の一
時的な冬型も収まり、月あかりが綺麗だ。新雪が10pほど積もっているが、雪のし
まり具合もよく、滝谷に突っ込む事に決定する。

 出会から少し入ったところから雄滝にかけてものすごいデブリとなっている。27日の
気圧の谷が通過した時に出たものだろう。気温が低いのでデブリも硬く固まっている。

 その上部の枝沢からは、チリ雪崩がひっきりなしに出ているが、通過に支障がある
ほどのものではない。雪崩がきたら逃げる場所もないゴルジュから合流点にかけても
デブリがものすごい。

 太陽が昇ってきたが、滝谷は北面にあるため午後ちかくにならないと太陽はあたら
ないので登攀は午前中が勝負だ。ここまでは雪がしまっているため、標高差300m
を1時間のペースで登ってきた。

 合流点からは各沢がよく見える。滑降予定のB沢は2/3ぐらいが雪崩の後の
アイスバーンが出ている。気温が低い時には滑降は厳しいだろう。

 とりあえず、第4尾根をの取り付きのスノーコルへ向かうため、C沢を登っていく。
2600m地点まで登ったところ、どうもすぐ横の枝沢に入ったらしい。早めに気が
付いたので急雪壁をトラバースをしてC沢に戻る。

 途中でラッセルがきつくなり以外と時間がかかってしまった。スノーコルの下部につ
いた時には09:50になっていた。この時間から第4尾根に向かうと登攀開始が
10:30になってしまう。これでは、滑降する時には陽がかげってしまい。急斜面の
滑降は厳しくなるし、帰宅が午前様になる恐れがあるため、第4尾根は中止して
C沢左俣を稜線まで登る事にした。

 C沢左俣は雪が深く、多いところで腰のラッセルとなり、1時間で標高差100m
程度しか登る事ができない。しかし、アイスバーンの上の積雪にもかかわらず、気温
が低いため、雪の結合状態が良く、簡単な弱層テストをしてみても雪崩れる気配はほ
とんど感じられない。
 
 12:15にC沢を登りきりドームと北穂高岳の中間ぐらいの稜線に到着。遠くには
槍ヶ岳がよく見える。

 滑降ルートだが最初はB沢の予定であったが、以外と滑降距離が短く、傾斜も
緩いしアイスバーンが多かったため、雪質がよく滑降距離のかなり長いC沢左俣の
滑降に変更した。

 この時点で稜線での気温は−5℃。滝谷全体も太陽が当たってきた。C沢左俣
からC沢本谷までの標高差300mはラッセルで苦戦した雪だか、しまっていた雪も
適度にゆるんできて、滑降するには申し分ない雪質である。

 13:00に滑降開始。雪を蹴散らし左俣を快適に飛ばすとアッという間に二俣に
到着。ここまでの最大傾斜は約50度。雪質がいいので、あまり傾斜は感じなかった。

 C沢本谷に合流してからは、パウダー、アイスバーン、デブリが入り交じっている。
C沢出合付近が傾斜が急なアイスバーンになっていた。合流点付近のデブリ帯は
太陽のおかげで雪がかなり柔らかくなっており、比較的滑りやすい。

 さて、一番の危険地帯であるゴルジュから雄滝までの滑降である。小さい雪崩
れが時折出てくるので、雪崩れの様子を見ながら突っ込んでいく。ここは太陽が
当たらないため、デブリやアイスバーンも固く、素早く駆け抜けたくてもなかなか
進まない。

 滑降しやすいラインを見極めて突っ込んでいく。雄滝の雪崩れが通過した後の
急なアイスバーンは、横滑りを応用して一気に滑り降り、最後の大きなデブリ帯に
突っ込む。ここでは谷全体がデブリで埋まっており、自分の身体と同じぐらいのデ
ブリもあり、チョット苦戦した。

 最後は、緩傾斜になってきた雪面を直滑降で滝谷出合まで滑り降りた。滑降
時間は45分。今回は、写真撮影をかなりやったため結構時間がかかってしまっ
たが、途中で休まずに一気に駆け下りれば稜線から出合まで15分もあれば十
分だろう。

 しかし、滝谷から涸沢岳/西尾根を普通に下山すると半日コースだが、FRE
E TREKを使えばアッという間に駆け下りる事ができ、スキーの威力は大きいと
改めて感心してしまう。

 滝谷出合からの下りは、川沿いをFREE TREKをはいて下降して行ったが
、白出沢出合から林道に戻るまで延々とラッセルする事になり非常に疲れた。

 林道は、ある程度FREE TREKで滑降できたので結構早かった。新穂高
には17:15に到着。今日の全行程は15時間10分であった。予定していた第
4尾根は登れなかったが、久しぶりのハード山行で十分に充実した1日であった。

 C沢/左俣は、すでに何人かのスキーヤーに滑降されているが、全て雪の安定し
ている5月以降の残雪期の記録であり、アプローチは出合からではなく、一般道か
らのものである。そして、最後に記録が発表されたのは18年前との事であった。

 今回の、クライミングで言う冬季(12月1日〜3月31日)の雪崩れが集中す
る季節に、新穂高より日帰りで、滝谷出合から直接アプローチして稜線から滑降し
たのは我々がはじめてであろう。

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 今回のアタックに際して、私が、各種気象データを見て入山直前に積雪状態を分析
した結果と実際の雪の状況を紹介します。

<予測概況>

 27日に気圧の谷が通過し、穂高でも2500m付近まで雨が降り、気圧の谷の
通過後は一時的に冬型となり、標高の高い所では新雪が多いところで50pは積も
っていると思われる。

 気圧の谷の通過後は寒気が流入してきて一時的に冬型になるが、次の移動性
高気圧の速度が速いため冬型もすぐにおさまり、28日の午前中は気温がかなり
下がるが、寒気も足速に通過し、太陽が昇ると気温が一気に上昇すると思われる。

<予測できた雪の状態>

 −20℃という真冬並の寒気の影響で、23日〜24日にかけてかなりの降雪が
あり、26日時点で少なくても50p以上の新雪が積もっていたと思われる。

 27日の気圧の谷の通過時に気温がかなり上昇し、2500m付近まで雨になり、
雨で湿った新雪が雪崩れとなってほとんど落ちてしまう。

 雪崩れの後は、下にある弱層のアイスバーンが現れるが、まだ降雨中のためこの
アイスバーンが雨のため柔らかくなる。

 そして、寒気が流入してきたところで、雨から雪に変わり、この柔らかくなった、
アイスバーンの上に新雪が積もる。本当ならアイスバーンの上に新雪が積もると完
璧な弱層ができてしまうが、雨で柔らかくなっているところに新雪が積もったため、
柔らかいアイスバーンと新雪の結合状態が良くなり、見た目は完璧な弱層となる
が、アイスバーン上の新雪が雪崩れるおそれはないと判断した。

 一時的な冬型による新雪は、栃尾のアメダスデータから分析すると、寒気による
降雪量は標高の高いところで50p以上はあると思われる。

 27日20:00頃には降雪もやんでいて、その後は寒気により気温が下がる。

 そして、高気圧の接近によって雲が取れたあとには早朝にかけて放射冷却のた
めにさらに気温が下がり、雪の結合状態はさらによくなってくる。

<実際の雪の状況>

 滝谷出合では、新雪は10p程度だが、雨によりできたアイスバーンが固くしま
っており、靴の沈み具合はクルブシ程度。

 雄滝下部には各沢から出たデブリが集中しており、大デブリ帯となっていた。

 雄滝は、雪崩れに洗われたアイスバーンが出ており、固くしまっていた。

 雄滝上部〜ゴルジュ〜合流点にかけても雪崩れが集中していたためデブリ帯
となっていた。

 B、C、D沢とも2500m付近まで雪崩れた後がありアイスバーンがでている。特
にB沢は沢の2/3がツルツルのアイスバーンとなっていた。

 2700m付近から雪が深くなり、C沢左俣では腰のラッセルとなる。雪の表面は
少し固まり、柔らか目のモナカ雪状態となっていた。

 C沢左俣を滑降してみると、エッジが引っかからない程度に雪面が少ししまって
いるので新雪にもかかわらず、雪崩れを誘発する事はなかった。雪崩は自分が
崩した雪が落ちて行く程度。

 滑降開始時間が遅く夕方になっていれば、左俣のモナカ雪がさらに固くなり、滑
降はかなり困難だっただろうと思われる。

 合流点までは、チリ雪崩れが少しある程度で危険は全く感じなかった。

 合流点から雄滝下部までは、ゴルジュとなっているため両サイドから雪崩が
集中していたが、特に大きな雪崩れはなかったため、雪崩れのタイミングを見
計らいながら滑降した。

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