一ノ倉沢/二ノ沢/左俣

日程
2002年3月9日(土)
メンバー
(埼玉県庁アウトドアファミリー)伊藤
記録
(埼玉県庁アウトドアファミリー)伊藤
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


谷川岳一ノ倉沢二ノ沢左俣
2002.3.9
メンバー:伊藤
所属:埼玉県庁アウトドアファミリー
   (全く知られてない団体ですが、一応アウトドアのサークルです。)

 先週の3月2日は幽ノ沢滝沢を狙って0時30分ころロープウェイ駐車場を出発
したが、あまりの気温の高さと林道途中のデブリに完全にびびってしまい、一ノ倉沢
出合の少し先まで行って引き返してしまった。

 そのリベンジにと、その次の週の3月9日に今度はルートを変えて一ノ倉沢二ノ沢
左俣〜頂上〜西黒沢滑降を計画する。

 二ノ沢の中でも比較的雪崩の危険性の少なそうでかつ簡単そうな左俣を登路に選
び、下りはスキーで西黒沢を一気に下山という少々欲張った計画だが、うまくいけばかな
りの短時間でけりがつくだろうという考えだった。

 西黒沢が南東向きなので早い時間に滑降を開始したいと思い、ロープウェイ駐車場
を2時20分ごろには出発。スキーの機動力を生かして林道をとばしたつもりだった
が先行した2パーティーのつぼ足ラッセルになかなか追いつけないというなさけなさ。
最後は一ノ倉沢の出合間近でシールがはがれて張り付かなくなってしまい、二ノ沢出
合まではスキーで行く計画が早くもパーになってしまう。ここでスキーはしばらくお
役ご免ということでザックにくくりつけ、アイゼンをはいて一ノ倉沢へ入る。

 先行パーティーのトレースを追って行き、途中から二ノ沢に向かってラッセルして
いく。二ノ沢は出合にクレバスがあるということだったが、それらしいものは見あたらない
ので、おそらく先日までの降雪でヒドゥンクレバスとなっているものと思い冷や冷やしなが
ら右岸沿いを慎重に進む。夜があけてきてやや視界が明るくなるころようやくクレバス
を発見。簡単にまたいで先に進む。

 右岸から沢が合流し少し進むと三俣に到着。結構傾斜を感じる。雪面は軟雪と堅め
のクラスト斜面が入り交じった感じでここまでで結構消耗する。左俣に入って少し進
んだころ後ろからあっというまに有持−藤川パーティーが追いついてきて本谷へ向か
っていった。

 左俣に入ってからも状況は同じで結構消耗する。しかも軟雪の部分に入ると雪が深
くかなりのラッセルになり消耗がさらに増す。

 夜があけてすっかり明るくなると今度は雪崩が心配になる。この左俣はとりあえず
日陰になっていて、チリ雪崩などもこないが、やはり気持ちわるいことには変わらな
い。あせるだけでのろのろとピッチがあがらないまましばらく進むと氷瀑下に到着。
この氷瀑はほとんど雪に埋もれていて上部の8mくらいが露出しているだけだった。
傾斜はゆるく、V級くらいか?

私は氷瀑左の雪壁状の部分を登ったが、キックステップは刻めるもののピックの効き
が悪く結構緊張した。(ここは素直に氷の部分を登った方がよいと思う。)氷瀑の上を少し
進むと沢は右に曲がるのでそのままこれを詰める。これは少し先で左岸側の稜線に突き上げ
ていて、この稜線がトポにある最後の雪稜だと確認すると、時間は少しかかったもののほぼ予
定どおりと少しほっとした。

 ところがである。雪稜に向かうにつれて傾斜が結構増してくる。見た目そうでもな
いが、実際に体感する傾斜はかなりになってくる。雪質も思ったより登りに適してないらし
く、一歩一歩にかなり気をつかう。

 ようやくたどりつた雪稜は想像以上に細く急で、沢の中以上に悪そうであった。
ブッシュがでていてこれを利用するが、ブッシュにのった雪は逆に不安定で結構シビ
アな状況に追い込まれる。下を見るとかなりの傾斜と高度で緊張感が走る。ふと人の声が
するのでそちらを見ると、今まで気付かなかったのだが後ろ(右岸側)は一ノ沢二ノ沢中
間稜で結構な数のクライマーが登っているのだった。

 とりあえずブッシュにスリングをまき、セルフビレイをとって気を落ち着かせる。
不安定な状態でなんとかザックを外し、水分だけ補給した。ここまで飲まず食わずで行動し
てきたのでかなり空腹を感じたが、ザックから食料まで取り出す余裕はなかった。再びザックを
背負い、行動開始。少し登って上のブッシュに別なスリングをまき、そちらにビレイを移して
下のスリングを外すという動作を2回ほど繰り返してやや安定したステップにのることができた。

 ここからはスリングをはずし、慎重に一歩一歩登っていく。ブッシュがあるところ
はホールドは安定するがスタンスが不安定、ブッシュのないところは比較的スタンスは安定する
がホールドはピッケルとバイルのシャフトだけでやや不安という状況が延々と続く。雪は表面が
比較的クラストしているので、キックステップを刻むのに10発くらいけり込まないと安定する
くらいの大きさにならず、かといってピックを打ち込むとひっかき傷ができるだけでまれに手
応えがある程度、シャフトを打ち込むのもかなりの労力で逆に1発でシャフトが潜るような所だ
とそこはブッシュにのった不安定な雪という状況であった。傾斜を殺そうとしてなるべく頂稜
よりに進むと雪庇状になっていたり、傾斜がゆるむと馬乗りになれるようなナイフリッジがでて
きたりでともかく緊張する。比較的安定しているのが先日までの降雪による新雪の吹きだまり
の部分であったが、そういった部分は今度は急傾斜のラッセルとなって体力を消耗する。

 雪稜の右は二ノ沢本谷で、大滝付近がみえていたが次々とそこを雪崩が落ちてい
く。結構な音がし比較的大きな雪崩だ。有持−藤川パーティーはおそらく既に東尾根に抜けている
だろうとは思ったが少し心配になるような雪崩だった。一方の左俣の方からは雪崩の音はしな
い。上部が完全に日陰になっているからだろう。唯一日が当たっていたのがちょうど沢からこの
雪稜に乗り移った辺りだけだったと思う。

 中間稜を登るクライマーを見ているとスタカットなのに自分よりも早く距離をかせ
いでいっている。おそらくこちらのスピードが異常に遅いのだろうと見当つけるが、ともかく一
歩でもミスをしたらその時点で終わりと思うと慎重にならざるを得ない。たぶん10m進むのに
30分くらいかかっていた部分もあったと思う。西黒沢の滑降はとうにあきらめ、ともかく無事に
国境稜線にたどり着くことだけを考えて進む。

 やがて雪稜は右にゆるやかに曲がり、相変わらず中間稜と平行になって上へ伸びて
いる。ブッシュもなくなり、雪が深くなるとテクニカルな面ではやや楽になったが、それでも傾斜は
かなりのものがあってやはり不安定なままだ。雪壁、美しいナイフリッジとクリアしていくとよう
やく中間稜が左から合流するように迫ってきた。このころになると不安定なラッセルがさらに一段
と深くなり、体力の消耗に拍車がかかる。

 そして、ようやく中間稜と合流、という辺りでトレースを発見。どうやら中間稜が
合流してすぐ先あたりの東尾根上のトレースに出たようだった。

 このトレースはしっかり踏まれていて非常に安定している。かなりの数のクライ
マーが通過していったようであった。振り返ると中間稜に1パーティーいてこちらへ向かってくる。
こういう状況の時はたとえ他パーティーでも非常に心強いものがあり、その存在は本当にありがた
かった。

 東尾根のトレースをゆっくりとたどる。第2岩峰付近で二ノ沢本谷から上がってく
るトレースを見つけ、有持−藤川パーティーが無事上がってきてるのがわかった。マチガ沢にシュ
プールがいくつかあったので、そのうちのどれかが2人のものだろうと見当をつける。4ルンゼに
もシュプールがいくつかあり、この日はエキストリーム系スキーも賑やかだったようだ。

 トレースは第2岩峰を右に巻き、国境稜線へは左へと続いている。階段状のステッ
プを有難くたどってあっけなく国境稜線にたどりつく。東尾根自体はそんなに時間がかからなかっ
たようだった。

 ここでようやく大休止をとる。日差しはもう夕方の雰囲気で時計を久しぶりに見る
と16時10分だった。ともかく雪稜で時間がかかったようだ。おそらく7〜8時間はもがいてい
たのではないだろうか。

 トマの耳までよれよれと歩き、ようやくお楽しみのスキーの出番となったが、完全
によれた足と萎えきった心に夕方の冷え込みでモナカ雪と化した肩の大斜面はあまりにも厳しく
(?)、すぐにスキーをはずして天神平までとぼとぼとあるいて下山する。天神平には18時前に到
着。当然ロープウェイは動いているはずもなく、アイスバーンと化した田尻沢の滑降コースをス
キーで滑って駐車場まで下山した。今回の山行で唯一スキーが役に立ったのはこの時だけだっ
た…。
 
 翌日、ふらっとでかけた奥多摩の御岳ボルダー。4、5人の先客とデッドエンドの
核心をあーだこーだといいながらさわっていると、ふと昨日のことが思い出されて不思議な感じで
した。結構充実したからなのだと思います。 

 この二ノ沢左俣は自己満足ルートのような気はしますが、トポ(白山書房刊「冬期
クライミング」)にもあるように雪のルンゼと氷(小さく簡単ですが)と雪稜(そんなに長くはないで
すが)が合わさっていて変化に富んでおり、岩以外は一通り楽しめます。雪崩の危険性も比較的少
ないので、東尾根では人が多すぎて…という方にはいいかもしれません。

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