アメリカ/ヨセミテ/エルキャピタン/ゾディアック

日程
2001年8月22日(水)〜29日(水)
メンバー
(G登攀クラブ)鈴木啓紀、その他
記録
(G登攀クラブ)鈴木啓紀
写真
なし
ルート図
なし

<山 行 記 録>


G登攀・鈴木です。
以前、ACMLに中途半端な投稿をしてしまったので、改めて清書した記録を投稿します。「またか」なんて言
わずに読んでいただけたら嬉しいです。
 
 ヨセミテ・エルキャピタン南東壁
 「Lost in America」 Y 5.10 A4
9月2、5〜9日       鈴木啓紀 (G登攀クラブ)  
                 今井考   (チーム84)     
 
 ビックウォールほとんど初めてコンビで同じ南東壁のZodiacに取り付き、首尾よく2ビバーク、それに気
をよくした僕達は、予定通り今回の目標、ロストインへいくことにした。ロストイン、といえば「山渓登山
学校シリーズ・アルパインクライミング」に保科さん・中垣さんパーティの記録が載っている、あのルート
。あの記録から10年もたっており、ずいぶんグレードダウンはされているだろうが、自分が登るんだ、と
思うと、やっぱりワクワクしてしまう。
 
9月2日
 今日は3pまでロープのフィックスをしにゆく、つもりだったがテントサイト更新手続きをしなければい
けなかったので、結局取り付きに着いたのは11時半すぎ。
 ジャンケンの結果、最初のA3は今井が。僕は木陰でボーッとビレーする。2p目は、C2のクラックからリ
ベットラダ−。最初のピッチでつくづく思った「ゾディアックより全然難い」。リベットはけっこう遠い、
上にボロい。ゾディアックのボンバーなボルトに慣れた体にはちょっぴりツライ。しかも僕はこのセクショ
ンで、新品リベットハンガーの破損、という信じられない理由の墜落をしてしまった。おまけにロープがけ
っこう出ていたので、けっこう長めのフォール。ま、壁全体が薄かぶりなので安全ではありますが。
 2p終わった時点で17時。ロープ2本を固定して下降。
 
9月5日
 僕の体調があまり良くなかったので2日間のレスト。
 「Sea of Dreams」に単独で向かう友人の長岡さんと3人でキャンプ4を出発。前日飲みすぎたせいで、
少し二日酔い気味だが、ま、しょうがない。
 エルキャピタンの黒い影が、星空をざっくり切り取っている。本当にでかいなあ。取り付きに着くころ、
やっと夜が明けてきた。 
 地面を離れるのが少し名残惜しい。やっぱりプレッシャーは感じているみたいだ。そのことを今井に話す
と、「え、俺はゾディアックの時と変らんけどなあ」。あ、そう。
 100mの空中ユマールの後、今井リードでA2+の3p目開始。4p目の出だしはA3+だが、ハイブリ
ットエイリアンのお陰か、けっこうあっさり。むしろ、スモールナッツを丁寧に決めてゆかなければいけな
い、その上のA2+のセクションで苦労した。次のピッチもA3。ここのエキスパンディングフレークで今
井がフォール。6p目の出だしを探るが、日も暮れてきたので今日はここまで。
 僕らの遥か左、海原のような岩肌にたった一人、長岡さんが張り付いているのが見える。ここから見ると
芥子粒以下だ。だけど、鳥肌が立つほどカッコイイ。二人して「なーがーおかさーん!!」と叫びまくる。
 
9月6日 
 6p目は全体的にかぶっているこのルート中、唯一傾斜が寝ているセクション。直上すると5.10R。
右から巻くと5.8R。右から行くつもりで取り付くが、こっち側は岩が脆い、うえに3mもいくと行き詰
まってしまった。カンテを回り込めば簡単になるのは分かっている、が、そこまでの2mがどうしてもこな
せない。伸び上がってつかんだカチホールドは今にも剥がれそうだ。ちきしょう。行きつ戻りつするが、全
然ダメ。やっぱりこっちのラインは一般的じゃないようだ。かといって3月に事故って(足首複雑骨折)以
来、殆どフリーが登りこめていない僕には、5.10Rを確実こなす自信はない。ちきしょう! 「代わろ
うか?」の声に、あっさり「頼む」。今井はまず、5.8のラインにトライ、するもやっぱり超えられない
。その後、意を決して(多分)、直上、見事On Sight! 少しの感動と、激しい自己嫌悪。今井によ
ればこのピッチ、ムーブ的には5.8か9ぐらい、だそうな。
 そのまま7p目も今井が。重たい思いをして持ち上げたキャメの#5が活躍していた。さて次は8p目。
待望のA4、核心ピッチだ。自然と気合も入る。気分のいい集中力。15m程右へフックトラバース。その
間、4ポイントほど、残置のコパーヘッドがある。今井の方を向き「楽し〜(少し震えている)」。
 リベットにたどり着き、ふーっと一息。ここからラインは直上しており、A3のリスが屈曲しながら伸び
ている。ここからも決して楽ではなく、このピッチに4時間半もかかってしまった。ビレー点に這い上がり
、「解除ーっ」と叫ぶと、「やったぜA4ー!」と返してくれた。
 ちょっと早いけれど今日はここまで。隣の「Zenyatta Mondatta」にはソロのカナダ人。
CDラジカセまで持ち上げ、夜ごと大騒ぎをしている。
 
9月7日
 9p目はやたらと屈曲したA3。クリーニングがしんどい。10p目もA3だが、トポの「tricky
 move left」という記述が不気味だ。何、トリッキーって?
 C2ぐらいのクラックをこなし、くだんのセクションへ。3mの左トラバース。それが今にも壊れそうな
下向きの極薄フレークときた。ロストアローから思い切り体を伸ばしてエイリアンの青をきめる。徐々に体
重を乗せてゆくと、フレークが欠けてしまった。気を取り直し、少し手前にボールナッツの#2をかます。
できるだけ奥に突っ込んで。乗り込む。フレークがギシッと嫌な音をたてる。心臓がバクバクいっている。
そこから極小エイリアン2発、だが岩は相変わらず不安定。フレーク全体が今にも壊れそうだ。フックに乗
り込み、ようやくホッとした。そこから残置コパー、そしてけっこうシビアなネイリング。絶対に落ちたく
ない。
 さて11p目。あの有名な(?)Fry of  Die。昔はA5だったが今はA3+。今井は、「保科さん
ポーズ」とか言いながら、かぶったセクションを登ってゆく。しょうがないので僕は写真を撮ってやる。
 このピッチはリベットと残置コパーに助けられ、けっこうあっさり片付いた。今にも抜けそうなリベット
もあったが、あれが抜けていたら、ドリル装備のない僕らはあそこで敗退だったろうな。今日ここまで。比
較的早い時間だけどまあいいか。今日もカナダ人のピーター(有名なクライマーらしい)は大騒ぎしている
。「Hey boys! Are you ready ?!」「イェーイ!」と僕ら。そして大音響のロックが夜の壁に
響き渡る。見上げれば夜毎の星の海。
 
9月8日
 12p目、朝一のA3はリベットラダーから。それを超えるとシビアなネイリングが待っていた。特に最
後の10m弱は、素晴らしくもなかなか厳しいコーナーリスだ。ピンスカーができているので、ピトンを打
つ場所はだいたい決まっている。が、浅い。どうしてもタイオフのピトンが続いてしまう。僕は丁寧に一つ
づつショックテストをかましながら登ってゆく。体重を支えるのが精一杯の浅打ちバードビークからバカブ
ーを打ち、急いで乗り込む。次のバカブーを打ち込んでいたら、不意に空中に投げ出された。「ウワッー」
。今回2回目の墜落。気を取り直し、登り返す。カムフックやソードオフアングルも駆使し、このピッチを登
りきった。やれやれ。
 13p目で「Zenyatta・・・」と合流。14p目、A2。舐めてかかったらけっこうしんどかった。ラインが
折れ曲がっているせいでロープはクソ重い(一旦テンション下降してランナーを回収した)。おまけに最後
のセクションはコパー連打から(ここで初めてコパーを打った)フック4連発、そのうちの1ポイントはけ
っこういやらしく、またしても心臓がバクバクになってしまった。ビレーボルトに届いた時は本当にホッと
した。
 今日はここでビバーク。あと2p。壁の傾斜がだいぶ落ちている。フィナーレも近い。このシアワセなポ
ーターレッジ生活もうおしまい。抜けられる嬉しさよりも、この生活が終わってしまう寂しさの方が、すこ
しだけ大きい。
 
9月9日
 15p目のA3を今井が。右横に、Zodiacの14p目がよく見える。思えば10日前、僕達もあそこを登
っていたんだ。すごく懐かしく感じてしまう。
 10p目、5.7のクラック。ハング下のクラックから抜け出ると、そこはエルキャップの頂上だった。
やったぜ。12時。僕らのロストインは終わった。今井と握手。本当に楽しかったし、充実してた。いい
クライミングができたな。少し嬉しい。
 下降も2回目だったので順調にいき、16時にはキャンプ4に帰りつけた。その後、カリービレッジの
バイキングにでかけたのは言うまでもない。しかも食いすぎで腹痛になるというおまけつきだ。
 
 
 
 ヨセミテ・リーニングタワー
「Wet Denim Daydream」 X 5.7 A3
9月12〜15日        鈴木啓紀(G登攀クラブ)
 
 リーニングタワーはヨセミテビックウォールの中では、特に日本人には、あまりメジャーな壁ではないみ
たいだ。キャンプ4で「リーニングに行こうと思っているんだけど」と言うと、だいたい「どこそこ?」と
いう返事が返ってきた。
 なんのことはない、僕だって、「少ない日数でやれて内容のあるところ、できればポーターレッジは使わ
ずに」、という基準で選んだらたまたまこれが残った、というだけの話なのだ。 
 
9月12日
 午後から、友人に車でブライダルベェイルフォールの駐車場まで送ってもらう。
 ちょっぴり分かりにくいアプローチにてこづり、壁の基部に着いた時にはもう夕方も遅かった。取り付き
までは、バンド(3〜4級)を50mばかりトラバースする必要があり、この日のうちに偵察と、ギアの荷
揚げを。初めて眺めるリーニングタワーは、本当に壁全体が前傾している。先行パーティのホールバックが
、プカプカと空中に浮いている。
 バンドの基部でビバーク。
 
9月13日
 リーニングタワーは午前中は全然陽があたらず、朝も暗い。で、結局寝過ごしていまい、Go upは9時。
今回は一人、ということもあり、今すぐ帰りたいような衝動に駆られてしまう。でもまあ、登りだしてしま
えば大丈夫だろう。
 1〜4pまでは、メジャールート、「West Face」と同じ。1,2pはボンバーなボルトラダー。安心し
てガンガン立ち込んでゆく。今回は荷揚げはせず、ホールバックをハーネスに吊るしてクリーニング。ちな
みにディバイスはソロエイドを使用。3,4pのC2も普通にこなし、超快適なアワニーレッジへ。今日はこ
こでビバーク。まだ時間があるので、5p目をフィクスしにゆく。出だしは5.7、そこを越えると、やさし
いが岩が脆く、支点もあまり取れないフリーのセクション(4級ぐらい)。そして核心のA3へ。ここはひた
すら残置コパーをたどる。全然難しくはないのだが、なにしろ10m以上コパーだけが続くので少し緊張す
る。その上のA2のハングを抜けると、やっとビレー点だ。「Wet Denim・・・」のオリジナル部分に入る
と、急にビレー点がオールドボルトになってしまう。このルートはあまりメジャーではないみたいだ。
 「West Face」を登るアメリカ人パーティと一緒にビバーク。
 
9月14日
 テンション下降、そしてフックから始まる6p目C2、そして、やたらといやらしい残置コパーが続く7p目
C2F、この2pに思いの他時間がかかってしまう。おまけに7p目ではメインロープの両末端を固定したまま
登りだすというどうしようもないミスを犯し、途中のクラックにカムでビレー点を作っての一旦下降&登り
返しという、余計な時間と労力を使ってしまった。相変わらず壁は前傾しており、バックロープでビレー点
に帰るのも一苦労。おまけに岩も全体的に脆い感じだ。
 8p目のC2が終わると、もう日没。お疲れモードは全開だ。しかしポーターレッジのない僕は、あと1p
登ってテラスにたどりつかないことには、寝る事もできない。9p目は下からも顕著に見えていたC2+のけ
っこう大きいルーフ。最後の難関、といったところか。取りかかる前に水と行動食を補給、これでけっこう
回復した。ルーフ自体は大して難しくないが、こんな夜中に(もう22時近くだった)、たった一人での空
中浮遊、頭がクラクラしてくる。 
 22時半、やっとこのピッチをかたずけ、テラスにたどりついた。そこには昨日仲良くなったアメリカ人
パーティ、ポールとレンがいて、僕のクライミングを称えてくれた。それからまた下降してクリーニング、
全てが片付いたのは、もう日付が変わる直前。僕は満たされた気持ちでシュラフに潜り込んだ。 
 
9月15日
 最後の4級10mをこなし、リーニングタワーの頂上へ。後は無事に下るだけ。アメリカ人パーティと一
緒に、8pにも及ぶ懸垂をこなすと、そこはタワーの基部だった(下降は概ねわかりやすいので、スパート
ポの記述通りに下れば降りられるでしょう。ただし、特に初めての場合は、日が暮れたら降りないでビバー
クする事を奨めます)。
 キャンプ4まで彼らに送ってもらえたのはラッキーだった。歩いたらちょっととんでもない距離だから。
そしてその後は3人で(僕とアメリカ人パーティ)カリービレッジへ。マルガリータとピザをおごってもら
い、気持ちよく酔っ払ってしまった。

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