小窓尾根

ARIアルパインクラブ/有持真人、原岳広、雨宮尚之、酒井学、星和陽、福島猛


<山行日> 1999年12月27日(月)〜31日(金)<記録> 有持真人



 12月27日(月)快晴

 伊折(07:20)〜馬場島(09:30/10:08)〜取水口(11:50/12:00)〜 コル(14:15/14:30)〜雷岩(15:30)〜小窓尾根/1380m(18:00)

 26日は冬型気圧配置で寒気が流入しているため、長野道に入った所で 雪が降っていた。剣岳周辺でも降雪があったようで、伊折でもかなりの積 雪となっている。

 いつもなら、伊折集落にゲートがあるのだが、今年はいつもの場所にゲ ートが見あたらない。更に馬場島に向かって車を走らせたい気持ちもあっ たが、伊折までしか除雪はされないし、大雪で閉じこめられるのも嫌なの で、いつもの場所に車を置いていく。結局、ゲートは15分ほど歩いた所 に設置されていた。

 今日は、天気は快晴。剣岳がよく見える。馬場島でヤマタンを受け取り 早速出発する。26日に雪が降ったおかげて、馬場島で1m以上は積雪が ある。途中の橋まではテレビ取材のためのトレースがあったが、橋より先 にはトレースは無い。

 先行でグループ・ド・ミソジパーティが25日に入山しているが、26 日の積雪のため、トレースは全く消えている。

 今回は、6名なので交代しながらラッセルをしたが、結局、取水口まで 2時間近くもかかってしまった。

 取水口から通常なら右の尾根を回り込んでいくのだが、このコースはト ラバースや徒渉が悪いので、堰堤の奥にあるコルを越えていく事にする。

 このコースは、雪の状態によっては雪崩れの危険があるが、今回は比較 的雪が安定しており、胸のラッセルで急斜面を登って行く。

 コルからの下りも急斜面なので雪崩れに注意が必要だ。一気に下ると、 ちょうど下ったところが池ノ谷出会になる。

 雷岩から小窓尾根稜線まで、また急斜面の登りになる。かなりのラッセ ルで時間がかかり、途中でヘッドランプを出す羽目になってしまった。

 6人もいるので、今日は1600m付近までは登れると思ったが、予想 以上にラッセルがきつく、1380mの稜線に出た所までしか届かなかっ た。夜は、初日用のビールで乾杯。ラッセルの後だけに美味い。

 12月28日(火)快晴

 1380m(08:00)〜1600m(10:10)〜1900m(12:45)〜ドーム(16:58)

 剣岳にしては珍しく2日続けての快晴である。アプローチの車でほとん ど寝ていないのと、初日のラッセルで疲れていたのか、寝過ごしてしまい 高層天気図が書けなかった。1時間遅れで出発。

 相変わらずのラッセルで、1時間で標高差120m程しか登ることがで きない。1900mピークに着いたときには、もう12:45だった。

 1900mピークには、ミソジパーティの幕営跡があり、この先はトレ ースが半分残っている。

 3段の雪壁の急登を登ると2120mピークに出る。ニードルは、右側 からクライムダウンしてザイルをフィックスして通過する。

 コルからひたすら登るとドームに到着。ちょうど日が沈む所で、辺りが 真っ赤に染まっていた。

 ドームにもミソジパーティの幕営跡があり、早速使わせてもらう。

 12月29日(水)雪

 ドーム(09:25)〜マッチ箱終了点(14:00)〜小窓ノ王懸垂地点(16:10)〜 三ノ窓(16:45)

 目が覚めると、夜半から降り始めた雪がテントを叩いている。しかし、 寒気が強くないのでドカ雪になるような気配はない。

 少し様子を見て、雪が比較的弱くなってから出発する。ミソジパーティ のトレースも完全に消えており、またラッセルから始まる。

 ピラミッド状ピークは、木をつかみながら1段登って雪壁をバンドまで 登る。その後、右側へトラバースしピラミッドを回り込んで、急雪壁をラ ッセルしながら登って行く。

 行き詰まった所が凹状になっており、微妙なバランスで乗越さなければ ならない。ビレーできる所では無いので、ノーザイルで行こうと思ったが、 冬山初心者もいるので、一度クライムダウンしてザイルを引っ張っていく 事にした。

 乗越してからは、立木で2カ所ほどランニングを取ることができた。ザ イルを目一杯延ばすと稜線に出て、雪の中のブッシュを掘り出してザイル を固し後続を登らせる。

 次は、マッチ箱下部の岩稜帯だ。それほど難しくは無いが、雪が不安定 に着いているし落ちると終わりなので、他のメンバーがピラミッドを登っ ている間にザイルをフィックスする。

 次は、8mほどの岩から急なルンゼ。その次は、20mほどのかなり急 なルンゼを登る。ここは雪が不安定だとかなりやばい所だが、今回は2日 間天気が良かったせいか、比較的安定していた。

 結局、マッチ箱の基部まで3回ザイルをフィックスした。ザイルを目一 杯延ばすと、声がほとんど届かないので、今回は各自に無線を携帯させて、 スピーカーマイクを使い、常時、無線が使えるようにしておいた。

 雪が降って風もあり、コールはまともに聞こえない状態だったが、無線 のおかげで、指示を全員に確実に伝達できて、スムーズに行動する事がで きた。

 マッチ箱を右から回り込むと稜線上にでる。アップダウンを繰り返しな がら小窓の頭を目指して進んでいくが、ホワイトアウトなのでコンパスと 地図で確認し、赤谷方面へ迷い込まないように慎重に行動する。

 小窓ノ頭に着く頃には、時折太陽が顔を見せるようになってきた。

 小窓ノ王の基部から、急雪壁を50m懸垂を1回し、1ピッチザイルを フィックスして三ノ窓に到着。正面のチンネが真っ白になっている。

 あれほどのラッセルにも関わらず、比較的天候に恵まれたおかげて、予 定どおり3日間で三ノ窓まで登る事ができた。

 12月30日(木)曇り〜晴れ

 三ノ窓(06:50)〜池ノ谷乗越(07:50/08:00)〜剣岳(11:43/11:50)〜 早月小屋(15:15)

 池ノ谷乗越への登りは、ラッセルとクラストした雪面との繰り返しで、 ひたすら登っていく。

 乗越から八ツ峰を見ると、3峰あたりに2〜3パーティが行動している のが良く見える。これだけ天気がいいと八ツ峰も快適そうだ。

 長治郎のコルまではラッセルが続く。剣岳の肩までは、結構急な雪面だ し、雪崩れる可能性もあるので、ザイルを2本つないで100mのフィッ クスをして通過した。

 山頂に向かうに従って、雄大な景色が見えてくる。今まで何回も冬の剣 岳に来ているが、これだけの景色が見えたの初めてだ。

 後立山から穂高、八ヶ岳、南ア、中央ア、乗鞍など、全てがはっきりと 見える。富山方面は、雲海が広がっていて毛勝山が頭を出していた。

 風が強いので、山頂で写真を撮って早速、下山にかかる。早月尾根の下 りは、天気が悪いとかなり神経を使うが、今日はトレースもしっかり着い ており視界も良好なので、景色を楽しみながらのんびりと下山する。

 早月小屋は、この前に建て替えられて綺麗になっていた。小屋のまわり にはテントはまだ3張りしかない。他のパーティは、登頂が元旦になるよ うに明日登ってくるのだろう。

 テントを張ろうと準備をしていた所、ビールを買いだしに行った仲間が 「布団なしなら素泊まり3500円だよ」と言っている。

 今まで、エスパースの4〜5人用テントに6人が入って、寝返りも打て ない状態で寝ていたので、迷わずテントを畳んで小屋にお世話になること にした。

 まだ、宿泊者も少ないので20畳近い部屋が貸し切りで、おまけにスト ーブも貸してもらえ、部屋で炊事までOKで、非売の日本酒まで売ってく れ、至れり尽くせりだった。

 一足早い、打ち上げが盛り上がったのは言うまでもない。

 12月31日(金)快晴

 早月小屋(07:45)〜馬場島(09:45/10:15)〜伊折(11:40)

 今日も快晴。冬の剣がこんなに天気が良くていいのだろうか??

 馬場島でヤマタンを返却する。

 警備隊の詰め所で聞いたところ、29日〜30日にかけて馬場島では雨 がかなり降ったという事で、雪がかなり少なくなっていて、山肌は春の様 な感じであった。

 伊折までの道は、初日はラッセルだったが、今日はアイスバーンになっ ていた。

<最後に>

 私が冬の小窓尾根を完登したのは、今回で4回目のアタックでした。今 までは天候が悪かったり、仲間が病気になって途中下山したりと、小窓尾 根には全く縁がありませんでした。(;_;)ウルウル

 登山届け上は予備日を多く設定していて、燃料、食料を予備日分持参し ていても、実際には限られた休暇の期間中に下山しなければなりません。

 となると、休暇期間中での完登の見込みがない悪天が予想されると早め の敗退になるのは仕方ないことですが・・・。

 今回は、3回の敗退に懲りずに入山しましたが、実行動5日間のうち、 晴れたのが4日間という、滅多にないベストコンディションで完登する事 ができ、今までに3回の年末年始をつぶした甲斐がありました。

 それから、早月小屋から馬場島へ下山中に多くのパーティとすれ違いま したが、その中の半分以上のパーティにACMLメンバーの方が何人かい て、たくさんの方々に声をかけていただきました。

 いつもメールだけのおつきあいですので、ゆっくりとお話をしたい所で したが、お互い、入山、下山とすれ違いということもあり、簡単な挨拶だ けになってしまい申し訳ありませんでした。


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