槍ヶ岳/北鎌尾根

槍ヶ岳/北鎌尾根

R大学山岳部/小林 博昭、D・K君


< 記 録 > 小林 博昭



(日程)10月4日夜行発〜10月8日朝帰京

北鎌尾根おマヌケ登攀記

(メンバー)R大学山岳部D・K君/小林博昭

(行動記録)

10/4
    23:50新宿発急行アルプス号にて出発
10/5
    13:00高瀬ダム発−15:00湯俣−17:00幕営
10/6
    5:30発−千天の出合7:45−北鎌沢出合9:30−11:30北鎌のコル
13:30天狗の腰掛(幕営)
10/7
    5:30発−6:45独標−10:00北鎌平−11:30槍ヶ岳山頂−18:45上高地
10/8
    帰京

10/4

 事の起こりは新宿駅6番線でした。するするとホームに入ってきた急行アルプス号に乗り込もうと立ち上
がり、今回のパートナーK君(彼はR大学の現役山岳部員)のザックを持ち上げると妙に軽い。「なんでこ
んなに軽いんだ。」の問いに、

「だって共同装備はコッフェルくらいですよ」
「ザイルはどうした、君の9ミリを持ってくるはずだったろう。」
「えっ、そうでしたっけ」

 そうこうしているうちに人並みに押されて列車の中へ乗り込んで、席について考え込んでしまいました。
今回はおそらく緊急事態以外ザイルを使うことはないだろうけど、持っていかないのは少し大胆すぎると
思います。
 協議の結果、松本でザイルを調達して、それから高瀬ダムに向かうことにしました。

10/5

 というわけで僕らは、石井スポーツの開店時間まで、優雅に松本市内観光としゃれこみました。後でこ
こでの6時間のおくれで悪天候につかまるとも知らず…。

 高瀬ダムを13:00に出発して、買ったばかりのザイルを車道の終点の駐車場で伸ばしてしごいたり
しながら、紅葉真っ盛りの道を湯俣に向かいました。

 湯俣から、すぐ先の吊橋を渡るといきなり道が悪くなります。くま笹の中の不明瞭な踏み跡をごそごそ
とやぶこぎです。ブッシュをつかんでの高巻きや、ヌルヌルの岩のトラバースなど、波乱万丈です。しっ
かりルートを見てないと、それこそ獣道に迷い込みそうです。そうこうしているうちに暗くなったので、
川から一段上がった平らな土の上にテントを張ることにしました。空には煌々と月が出て、ロマンチック
な夜でした。

10/6

 5:30ヘッドランプをつけて出発です。夜が明けるに連れて、青空が広がってきました。今日も天気
はよさそうです。しかし道は相変わらずで、しばらく行くと踏み跡も消えてしまいました。ちょっと困っ
てまわりを見渡すと、吊橋の残骸が沢の両側にへばり付いています。

 向こう側(右岸)に赤い布がぶら下がっているではありませんか。覚悟はしていたけれど、冷たそうな
水だなあ。意を決して徒渉すると、深さはおおむね股下くらいで、冷たいのなんのって!もたもたしてい
ると足がしびれて動けなくなりそうです。

 なんとか渡って相棒を見ると、もう死にそうな顔をして、岩場でミシンを踏んでても見せないようなマ
ジな顔をして渡ってきました。それからしばらく行くと千天の出合です。ゴミがたくさん捨てられていて
見苦しいところでした。

 すぐ先にはすばらしい滝が落ちているというのに…。もう一回徒渉をして、(膝下ぐらい)相変わらず
の道なき道を進むと、沢は広くなって北鎌沢の出合です。一休みして、腹ごしらえをして登り始めました
が、結構急で大変でした。途中しばらく伏流になっているけれど、二俣で水が顔を出しました。

 水筒を満タンにして右俣を登って行くと、かなり上の方でも水が出ていました。やっとの思い出北鎌の
コルへでて、お昼ご飯にしました。そこからゆっくり登って1時間半で天狗の腰掛に着きました。あんま
りいい天気だったので二人で昼寝をしましたが、これがいけなかった。

 目が覚めると3時を回っているではありませんか!もう億劫になってしまって、その辺の平らなとこる
で泊まることにしました。(なんて軟弱なんだろう!)

 夜になって、天気予報を聞くと、なんとあしたは雨!これは大変とばかり、楽しみにしていたナイター
(中日―巨人戦)も聞かずにすぐ寝ました。

10/7

 朝起きると、東の稜線はなんとか見えるけれど、西側は黒いガスの中。やっぱり…とっとと出発したけ
れど、案の定独標の手前でほとんどガスの中になってしまい、まもなくみぞれ交じりの空模様です。

 この辺から雪がでてきて、ルートファインディングに苦労しました。遠征帰りのK君は快調に飛ばすの
はいいんだけれど、彼の弱点であるメガネが曇って、ルートを見失い、

「小林さん、ここ登るんですか!」
「違うよ、右のルンゼを登って、向こう側だ!」とか、
「あれ、行き止まりだあ!」
「ここは登るしかないだろう」

 てな具合で、それでもなんとか独標を過ぎて北鎌平に近づくころには、足元の雪は5センチぐらいのザ
ラメ状で、おまけに雨も風も強くなってきて、厳しくなってきました。ここまで、何カ所か数mの岩登り
がありましたが、いずれもU〜V級ぐらいで軽装ならなんでもないんでしょうが、家財道具一式を背負っ
てる上に岩は濡れ、それをかじかんだ手で登るのだから怖いこと怖いこと!W級にもX級にも感じました。

 さて、見覚えのあるチムニーです。まわりは何も見えませんが、たぶんこれを登ると山頂の祠の裏のは
ずです。K君はチムニーの前で、「ザックが大きくてチムニーに入れない!」と叫んでいます。僕は一言、
「ここ登るんだよ。」と言ってやりました。

 K君はしばらく考えて、「そうか!チムニーに体を入れずに登ればいいんだ」と言い放つのでした。K
君がチムニーの上の易しい凹角を右上して視界から消えるとすぐ、「ウォー!!」という歓声が聞こえま
した。

 ぼくが登って言って顔を出すと、そこには満面の笑みを浮かべたK君の顔がありました。

 槍ヶ岳山荘で休んだあと、そのまま一目散に上高地に向かいました。しかし、タッチの差で間に合わず
上高地ビバークとなってしまいました。

反省点 あ〜んど 感想

 今回は一刻も早く上に抜けるべきだという判断から、ザイルは使用しなかったが(徒渉時に一回使用し
た)尾根全体に傾斜が急で、所々現れる岩場も、一見易しいが条件によってはザイルの使用をためらうべ
きではない。

 強行突破に成功したからいいものの、本来なら天候の悪化を知った時点で、もしパーティの中に調子の
悪い者・力量の劣る者がいたら、撤退も選択肢の一つではないか?

 この場合、往路を戻っても良いが、貧乏沢を登り、縦走路にでるのも一案では?

 なんといっても、ザイルを忘れるなんてもってのほか!山へ行く以前の問題として、二人とも大変反省
してます。

 やたらにゴミの多いルートでした。アプローチも、尾根上でもゴミが打ち捨てられていました。ひどい
のになると、ザックまでおいてありました。(身元に関するものは何一つ入っていませんでしたし、槍ヶ
岳山荘でも何も聞いていないと言っていましたから、おそらく放棄したのでしょう。)一般コースじゃな
いところではゴミは持ち帰らなくていいと思っているのかな。

 アプローチの湯俣ルートは確かに道が荒れています。場合によっては尾根にとりつけないこともあるで
しょう。でも、縦走路から貧乏沢を下降して取り付いたのでは北鎌尾根の魅力は半減すると思いました。
とにかく、いいトレーニングになりました。

情報

 本文でも書きましたが、吊橋は破壊されています。徒渉は必須でしょう。

 あちこちにビバークサイトがあります。ただし、あまり大きいテントは無理ですし、風からも完全には
守れません。又、独標の手前に快適そうな岩小屋がありました。

文責  小林 博昭



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