塩見岳落雷事故

◆落雷 南ア塩見岳で1人死亡 ツアー登山4人入院

二日午後一時五十分ころ、長野、静岡県境の南アルプス・塩見岳(標高三、〇四六
メートル)を下山していたツアー登山の愛知県内の男女十七人パーティーの近くに落
雷があった。約五十分後、ツアー添乗員が三伏峠小屋(下伊那郡大鹿村)に駆け込
み、同小屋関係者が一一〇番通報。県警と県のヘリコプター二機が出動し、現場付近
で心停止状態だった名古屋市西区、無職奥山真弘さん(67)を発見、飯田市立病院
に運んだが、午後四時四十二分、死亡を確認した。

他のメンバーは、自力で三伏峠小屋に下山。このうち奥山さんの妻の無職紀美子さん
(66)、辻寿保さん(61)=豊明市間米町=、会社員足立礼子さん(55)=三
好町黒笹=、無職織田行文さん(64)=名古屋市瑞穂区=の四人が感電による体の
しびれを訴えるなどしたため、ヘリで同病院に収容、入院した。残る十二人は三日
朝、下山する。

県警地域課などによると、落雷があったのは、塩見岳から権右衛門山を経て本谷山に
登りかけたりょう線。雨が降り出したため、それぞれが雨具を身に着けようとしてい
たところ、近くにあった樹木に落雷したらしい。

長野地方気象台は二日午前十一時、全県に雷注意報を発表。南アルプスは午後二時こ
ろ、最も激しい雷雨だった。(8月3日 信濃毎日新聞)

◆危険潜む「夏山の午後」 ガイド任せのツアー登山

南アルプス・塩見岳に登頂した喜びに包まれながら、雨中のりょう線を歩いていたツ
アー登山の一行を落雷が襲った。長野地方気象台が全県に雷注意報を出していた二日
午後、愛知県内の登山参加者五人が死傷した落雷事故。中高年の登山ブームを背景
に、旅行会社が企画した夏山ツアー登山。日程に、気象の見通しに甘さはなかった
か。専門家から「落雷の起きやすい時間帯にりょう線を歩くことは危険」との指摘も
出ている。

塩見岳のツアー登山は、近畿日本ツーリスト(東京)が初企画。クラブツーリズム名
古屋国内旅行センターが募集した。同社によると、一日から二泊三日の日程で、五十
―六十代中心の十五人が参加し、同社の添乗員と北安曇郡白馬村のガイドの事務所に
派遣してもらった登山ガイドが同行していた。

県警地域課などによると、一行は二日午前四時半ころ、宿泊していた下伊那郡大鹿村
の三伏峠小屋を出発し、午前十時ころ塩見岳に登頂。午後三時ころに戻る予定だった
同小屋に向かう午後一時五十分ころ、落雷に遭った。

この日午後、無線連絡で情報収集した三伏峠小屋のオーナー平瀬長安さん(60)に
よると、落雷現場は、人の背丈ほどのシラビソがまばらに生えている場所。一行は天
気が崩れ、雷が断続的に鳴るようになった午後一時半以降も歩き続け、近くの立ち木
への落雷に巻き込まれたという。

日本百名山を対象に夏山ツアー登山を企画している近畿日本ツーリスト広報部は「申
し込み段階で山の基本についてアドバイスしたり、参加者への事前説明会を開いたり
し、安全対策には力を入れている」と説明する。だが、天候急変など緊急対応は、す
べてガイド任せ。「経験豊かなガイドなので、安心して任せられると思っていた
が…」と担当者。

同気象台によると、雷雲は午後一時ころ、南ア上空に到達、雷雨となった。「夏山で
雨や雷を気にしていたら山歩きできない」と言う専門家がいる一方、飯田市出身の登
山家大蔵喜福さん(51)は「夏山は早朝に出発し、午前中に行程を終えるのが山に
慣れた人のやり方。落雷の危険がある午後二時以降は行動をしないのがベスト」と指
摘する。

遭対協の北ア・涸沢常駐隊副隊長の山口孝さん(55)は、落雷の予測は困難―とし
た上で、「登山ガイド一人で連れて歩ける登山者は五、六人が限度。十五人もいれば
雷からの避難も難しいのではないか」と話した。(8月3日 信濃毎日新聞)

◆南ア落雷事故 旅行会社、安全対策「適切」と主張

愛知県内のツアー登山パーティー十七人が南アルプス塩見岳で二日、落雷を受け、一
人が死亡、四人が負傷した事故で、県警は三日、事故現場は上伊那郡長谷村地籍とみ
て、伊那署員が飯田署に出向き、下山したツアー参加者らから事情を聴いた。一方、
ツアーを企画した近畿日本ツーリスト(本社・東京)は、名古屋市の同社中部営業本
部で記者会見。事故当時の様子やツアー内容を説明し「安全対策は適切だったと思
う」との認識を示した。

名古屋国内旅行センターの佐藤貢支店長ら三人が会見。説明によると、ツアーにはガ
イド派遣会社「リトル・アドベンチャー」(本社・石川県金沢市)の北安曇郡白馬村
の事務所のガイド(30)と、近畿日本のグループ会社の添乗員(26)が同行。ガ
イドは登山ガイド歴四年で、塩見岳の案内は四回目だったという。

事故当時の様子は▽塩見岳山頂からの復路で、午後一時半ころ雷鳴が聞こえた。この
時、ガイドが先頭、添乗員が最後尾を歩いていた▽約十分後、雨が降ってきた。ツ
アー参加者が雨がっぱの上着を着た。五分後、雨が強くなったため、ガイドが参加者
に雨がっぱのズボンを履くよう伝えた。その五分後に落雷があった―と説明した。

気象への注意については「経験豊富な山岳ガイドがついており、気象確認は怠りなく
やった」と主張。参加者数に対するガイドの人員などは「十分だった。リトル社と十
分な協議の中で作ったツアーで、日程も狂いのないものだった」とした。

今回のようなツアーでは、説明会を定期的に開いているが、参加は義務ではないとい
う。参加者に自然状況に対する注意点などを記したガイドブックは配っているが、落
雷など具体的な事項には言及がないという。(8月4日 信濃毎日新聞)

◆いきなり落雷 みんな倒れた 参加者ら当時の状況語る

「雨が降ってきたので、かっぱを着ようと(高さ)三、四メートルくらいの木の周り
にみんな集まった。それまで雷は遠くで鳴っていたが、いきなり木に落ちてみんな倒
れた」。南アルプスで二日午後起きた落雷事故に遭い、飯田署で伊那署員から事情聴
取を受けた愛知県のパーティーの男性一人は、事情聴取終了後、落雷の瞬間を語っ
た。

この男性によると、木の周りには、みんな自然に集まったという。「(自分が)起き
上がると、まだ倒れている人もいた」と話した。

また、女性の一人は「右腕と右足に雷の直撃を受け、仰向けに倒れて動けなくなっ
た」と振り返り、「汗と雨で凍えそうになり、雷の中を走って小屋へ帰った。平地で
は考えられないほど何回も雷が鳴り、本当にすごかった」と話した。(8月4日 信
濃毎日新聞)

ACHP編集部

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