信濃毎日新聞のコラム「斜面」に雪形の話題

瞬く星空を眺めて、白鳥やワシなどの姿を思い描く。星座は世界に広く知られた人類
の想像力の産物である。同様に雪国の人たちは、春から初夏、雪解けとともに現れる
山肌の絵模様を凝視する

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遠く雪形(ゆきがた)が映える季節を迎えた。代表的な一つ、中央アルプスの「島田
娘」が、ふもとの駒ケ根市周辺で遠望できる。いつになく早々と花が咲き、新緑の芽
吹いた年だけれども、島田娘の登場は例年とそう違わない。たっぷり三月に雪が降
り、結構残っていたらしい

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雪形は残雪が消えて、現れた黒い山肌の織りなす“自然の芸術”といっていい。主に
未婚女性の結う島田まげに見立てた里の人たちの感性にも感心する。山々に親しみ、
季節の変化に敏感でなくては、何とも思わず見過ごしてしまう。細やかに自然と向き
合った結果、さまざまな連想を抱くことができた

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農作業との関連の強さを忘れてはなるまい。北アルプスでは、白馬岳の「代かき馬」
がよく知られる。頂上付近から北へ下がった辺り、頭をもたげ、前後の脚を踏ん張っ
た雄姿がたくましい。白い雪の間に黒い岩を浮き上がらせる構図だ。代馬(しろう
ま)岳と呼ばれる理由でもある

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山に馬が見えたなら代かきにかかる。つまり、田植えの作業の目安だった。常念岳の
「常念坊」や蝶ケ岳の「チョウ」も名高い。白と黒の絵模様を見詰め、自分なりの雪
形を名付けてみることもできる。四方を高い山に囲まれた信州ならではの楽しみであ
る。(4月24日 信濃毎日新聞)

ACHP編集部


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