八方尾根スノーボーダー遭難に関する新聞報道

◆スノーボードの男女、行方不明 1人発見 白馬八方

長野県白馬村の白馬八方尾根スキー場の兎(うさぎ)平ゲレンデで8日午後5時ご
ろ、スノーボードをしていた長野市青木島町の飲食店従業員石井正明さん(22)と
友人で同市上松の会社員宮下香織さん(22)の2人が行方不明になったと、友人か
らスキー場のパトロール隊に連絡があった。パトロール隊は9日午前0時半まで捜索
したが見つからず、同県警が同日午前7時50分から捜索を始めた。10時20分す
ぎにゲレンデから400メートル下の谷で1人が手を振っているのが発見され、確認
を急いでいる。

県警大町署の調べでは、2人は友人らとスノーボードをしている間に、コースを外れ
たらしい。

8日午後5時ごろになって、2人から友人に携帯電話で「身動きがとれなくなった」
と連絡が入った。その後、兎平ゲレンデ南側でパトロール隊が呼びかけたところ、呼
びかけに応じる声が聞こえたが、現場は暗く、ふぶいていたため2人を発見できな
かったという。9日午前5時半ごろまで携帯電話での連絡があったという。

当時、大雪注意報が出ており、現場付近では積雪が3、4メートル以上あった。同ス
キー場は8日は、正月明けで比較的すいていたという。(1月9日 asahi.com 11:09)

◆八方尾根・不明ボーダー救助/雪崩危険地帯

北安曇郡白馬村の白馬八方尾根スキー場で、8日夕方から行方不明となっていた、ス
ノーボーダーの男女2人が9日、無事救助された。現場は尾根にあるゲレンデから遠
く離れた沢、雪崩が多発する危険地帯だった。新雪を滑りたいと滑走禁止区域に入る
ケースは後を絶たず、ボーダーのモラルが問題視されており、各地のスキー場も対策
に苦慮している。

2人が救助されたのは兎(うさぎ)平ゲレンデ南西側の急斜面を500〜600メー
トル下った源太郎沢付近。長野市上松、会社員宮下香織さん(22)は9日午後2時
40分すぎ、同市青木島町の飲食店従業員石井正明さん(22)も午後3時半時ごろ
に相次いで発見された。

午後5時半ごろ、雪上車で両親や友人の待つ兎平の管理棟に到着した宮下さんは、パ
トロール隊員に毛布で抱きかかえられるようにして「すみません」と小声でつぶやい
ていた。「よく頑張ったね」と声をかける両親と抱き合い、まもなくゴンドラで下山
して病院に向かった。石井さんも午後6時半ごろ、管理棟に到着、比較的元気な足取
りで雪上車を降りた。家族の問いかけに対し、「大丈夫、けがはない」と話してい
た。

2人は中学校時代の友人で、仲間4人で8日朝から同スキー場でスノーボードをして
いた。

一緒に滑っていた友人の女性(22)は「2人は新雪を滑っているうちに、コース外
に出てしまった。戻った方が良いと言ったけれどうまく方向転換できず、そのまま下
ると言っていた。その後、『雪にはまって動けない。レスキュー隊を呼んでくれ』と
携帯電話がかかってきた」と話している。

現場はゲレンデ南側のコースを外れた場所で、「雪崩がいつ起きてもおかしくない」
というほどの危険地帯。

8日午後4時半ごろ、行方不明となった2人の友人から同スキー場パトロール隊に
「友達とはぐれた」と届け出があった。午後5時半ごろから付近の捜索を始めた。

携帯電話で2人の位置を確かめてゲレンデ南側斜面に向かった。呼びかけに応じる声
は確認できたが、吹雪のために位置の特定はできなかった。

「雪洞でビバークするように」。夜に入って、猛吹雪となり、何度もハンドマイクで
呼びかけたが、返事は聞き取れなかった。翌9日午前零時半に捜索はいったん中断し
た。

午前7時ごろから、県警山岳救助隊や地元の山岳遭難防止対策協会のメンバーなどが
再び捜索を開始した。猛吹雪はやまず視界は1メートル前後。急斜面をう回して沢の
上流からようやく2人にたどり着いた。宮下さんは携帯電話のメール機能で、駆けつ
けた父親と夜明けまで連絡を取り合っていたという。

八方尾根では00年2月にコース外のガラガラ沢で、スノーボードをしていたニュー
ジーランド国籍の男性3人が雪崩に巻き込まれ、死亡する事故があった。同スキー場
の富永好文パトロール隊長は「その後も、禁止区域への立ち入りはしょっちゅうで、
特にスノーボーダーに多い。ロープや網も簡単にくぐっていく」と困り顔だ。

同スキー場ではゲレンデ外の滑走禁止を放送などで呼びかけ、違反者に注意するなど
対策を講じている。しかし、新雪を滑走する感触を求めてコース外に出るケースが後
を絶たず、「もう個人のモラルの問題だ」と話す。

安否が気遣われた2人は無事発見されて周囲は安どしたが、パトロール隊事務局では
「夕方に雪の降る中、あんな所にいくなんて……。救助隊のメンバーの命までも危険
にさらされた」と厳しい口調で話していた。(1月10日asahi.com 長野版)

◆八方尾根の男女を救助 雪に穴掘り丸1日

北安曇郡白馬村の白馬八方尾根スキー場兎平(うさぎだいら)ゲレンデ外の沢筋で八
日、スノーボードをしていて動けなくなり、携帯電話で救助要請をしたまま所在が分
からなくなっていた長野市青木島町、飲食店従業員石井正明さん(22)と同市上
松、会社員宮下香織さん(22)は九日午後、数百メートル離れた別々の場所で雪の
穴の中にいるのが相次いで見つかり、同日夜までにスキー場パトロール隊員や県警山
岳救助隊員らに通報から丸一日ぶりに救助された。

二人とも大町市内の病院に経過入院したが、宮下さんが手の指先に軽い凍傷がある程
度でともに元気という。

救助隊員らが九日午後三時前後に、二人のいる場所に相次いでたどり着き、圧雪車の
ウインチで引き上げるなどして同五時十分すぎから六時二十分ころにかけて救助し
た。二人は八日夜以降に離れ離れになったとみられ、雪の中に穴を掘り、その中で過
ごしていたらしい。

現場付近は九日午後も吹雪で、上空からの捜索に飛び立った県警ヘリコプターは途中
で引き返すなど二人の居場所の特定が難航。地上からの捜索が長引いた。

二人が遭難した場所は同スキー場上部の八方展望ペアリフト南側の沢筋で、雪崩の危
険も高いため一般スキーヤーらの立ち入りが禁止されていた。大町署は、なぜ立ち入
り禁止区域に入ったのかなど十日以降、二人から詳しい事情を聴く方針だ。(1月10
日 信濃毎日新聞)

◆社説=コース外滑走 “冬山の怖さ”忘れるな

スキー場はいったん天気が荒れると冬山の顔をのぞかせる。コースを外れた区域の滑
走は危険を顧みない行為にほかならない。北安曇郡白馬村の八方尾根でスノーボード
の男女二人が救助されたケースは、紙一重で運が味方したと受け取れる。

本来ならば、友人たちと心地よく一日が終わるはずだった。立ち入りが禁止されてい
る場所に入り込んで身動きがとれなくなる。

沢筋で別々に雪穴を掘って夜間の寒さをしのいだ。助けを求めてからほぼ一昼夜後の
夕刻、救助された。

無事で何よりである。家族や仲間は気が気でなかっただろう。悪天候を突いて捜索隊
が懸命に任務を果たし、朗報をもたらした。

それにしても、幸運な要素が幾つか重なったと考えられる。もし雪崩が発生していた
り、体力を消耗していたら、どうなっていたか。再発を防ぐためには何が必要か、教
訓をくみ取らなくてはならない。

この種の問題が起きるたびに挙げられるのは、ゲレンデ以外への立ち入りをいかに防
ぐかである。

一般にスノーボードはスキーに比べ浮力が大きい。粉雪を求める愛好者が目に付く。
滑走禁止エリアをあえて選ぶ傾向もうかがえる。

同じ八方尾根で二〇〇〇年の二月、ニュージーランド人の男性三人が雪崩に巻き込ま
れ、死亡したのもそうだった。

ゲレンデは管理者側が圧雪し、一定の安全性が保たれている空間である。つまり、境
界の一歩先はその限りでないとだれもが認識しておかなくてはならない。

もう一つ、自分の身を守るには状況判断がいかに大切かである。穏やかなスキー場
も、気温や風向き、標高、時間帯によって刻々と変化する。時に険しい表情を見せ
る。

そういう場合、刺激優先の滑りではまずい。自分をコントロールするすべを身に付け
ているか否かで、危険回避の仕方は異なってくる。

スキー場側は利用者に軽率、無謀な振る舞いがあれば、繰り返し注意する必要があ
る。ルールを守ってこそ、レジャーは楽しめる。

最近、救助要請やその後の安否確認に携帯電話が使われることが多い。山岳遭難ばか
りでなく、その他の行楽事故でも頻度が高まっている。

命綱に等しい場面があるのは分かる。仮に、困れば電話―と安易な行動を助長してい
るとしたら、結果の深刻さを考えるべきだ。捜索、救助する側は常に命懸けである。
(1月11日 信濃毎日新聞)

ACHP編集部

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