富士山合宿「安全配慮不足も要因」県山協が報告書

昨年十二月、海外遠征に向けた富士山合宿で、県山岳協会員二人が死亡した遭難事故
の原因について、同協会は二十八日までに、冬の富士山特有の厳しい気象状況が直接
要因とした上で、合宿リーダーの安全に対する予見、配慮不足なども要因―とする事
故報告書をまとめた。また、同協会主催の遠征でありながら、参加希望者の所属山岳
会との意思疎通が不十分なまま計画が進められたことなども事故の遠因―と指摘する
など、これまでの協会の体質も問うものになった。

協会は事故後の昨年末、協会顧問、協会外の学識経験者など十一人の事故究明委員会
を設置。合宿メンバーからの聞き取りなどを重ねて原因を分析した。

それによると、合宿計画段階では、本来の目的が体力強化など三点だったにもかかわ
らず、ほとんどの隊員が隊員交流のためと思っていたなど、認識がずれていた上、お
互いの技量、冬富士の危険性などの確認について事前打ち合わせが不足していた―と
分析。

合宿中に対しては、リーダーが出発前、「風が強まったら夏道に逃げる」などと指示
したものの、個々の装備や行動には「自主性」を尊重した点の問題点も指摘。「自然
相手の登山で、自主性は個人が負うべき基本的重要事項だが、リーダーはメンバーの
状況をできる限り掌握するよう努め、適切な指示が求められる」とした。

海外登山に対する協会の姿勢も問題視。今回、遠征参加希望者が提出した申込書の中
には、所属山岳会責任者の署名や押印がなかったり、希望動機や山行歴が記入されて
いないものがあった。だが、所属山岳会との連携が十分に取られず、個々の力量を把
握することなどがあいまいにされていた点を指摘している。

二人が死亡した直接要因は、疲労の蓄積、山頂での烈風とともに低体温症状が急速に
進む高度障害の影響と推測した。

この事故で引責辞任した前会長の後任として就任した松田美宏会長は「事故を教訓
に、協会の海外登山に臨む姿勢や装備点検など登山の基本を再認識し、所属山岳会と
の連携も密にしていきたい」としている。事故の再発防止の意味も込めて、報告書を
広く公表するという。(5月29日(火)信濃毎日新聞)

ACHP編集部

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