富士山頂は山梨 それとも静岡?

〈富士山頂は山梨、それとも静岡? 地図を見ても県の境界線が引かれていません〉
=千葉・松戸市 主婦Y・Yさん(38)の疑問


◆権益もからみ、境界線引いたりしたら大騒動

 標高3776メートルの秀峰・富士山。国土地理院発行の地形図を見ても、東西に
延びる山梨・静岡県境が、山頂付近から東麓(とうろく)の小富士(1906メート
ル)にかけて途切れています。「境界未定のところに線は引けませんから」と同院。
富士山頂は県境が定まっていないのです。

なぜ県境が決まらないのでしょうか。山梨県富士吉田市教委の市史編さん係長・奥脇
和男さんは「富士山は日本のシンボルだという意識があり、また、境界を定めると権
益もはっきりして争いになりやすい。江戸時代にも、甲斐と駿河の間で頂上はどちら
のものかという論争があり、幕府が裁定に乗り出したそうです」と説明します。

同院によると、都道府県境が未画定の所は、富士山頂を含めて全国で二十か所もあり
ます。「人が住んでいない場所、歴史的に互いが相譲らないような場所が境界未画定
になっているようです」と自治省振興課。

境界未画定で困った事態も起きています。富士山をご神体とする「富士山本宮浅間大
社」と国は、八合目以上の土地の所有権を争っていましたが、最高裁は一九七四年、
大半を大社の所有地(境内地)と認めました。

大蔵省国有財産審査課は「出来るだけ早く浅間大社に土地を譲渡したい」としていま
すが、県境が未画定で払い下げる土地の地籍や面積が確定しないため登記が出来ず、
今も国が所有したままです。

警察は、静岡県警御殿場署と富士宮署、山梨県警富士吉田署が、登山道などを目安に
して山麓をほぼ三等分して受け持っています。山頂北東部(山梨県富士吉田市と静岡
県小山町部分)の山小屋では小山町側に固定資産税を納めているそうです。山頂南西
部(山梨県鳴沢村と静岡県富士宮市部分)の気象庁富士山測候所の住所は「富士宮市
富士山頂剣ヶ峰」です。

青森県十和田湖町と秋田県小坂町にまたがる十和田湖(六十一平方キロ)では、県境
を画定させようという両町の話し合いが続いています。小坂町側では「境界が画定し
て町の面積が増えれば交付税も増える」(総務課)と話しています。

自治体に配分される交付税を決める際には面積も考慮されますが、これまで計算外
だった湖面分だけ町の面積が増えれば、交付税も増えます。関係する二県二町で一億
円以上の収入増になるとの試算もあります。

しかし、話し合いはなかなかうまくいかないようです。もう一方の当事者の十和田湖
町は「湖面に直線を引くと、半島の先端だけが引っ掛かってしまうが、曲線を引くだ
けの根拠もない」(総務課)と線引きの難しさを指摘しています。

境界未画定地は人里離れたところばかりとは限りません。東京都葛飾区と埼玉県三郷
市は、都立水元公園と県営みさと公園の間のため池「小合溜(こあいだめ)」、東京
都江戸川区と千葉県市川市は江戸川の中州、同区と同県浦安市は旧江戸川河口部の海
岸線をめぐって、それぞれ境界が未画定となっています。

自治省振興課では「境界未画定の所が無いに越したことはないが、直ちに是正を求め
るのも難しい」としています。現代の国盗(と)り物語、解決にはなかなか時間がか
かりそうです。(2000年8月24日 東京読売夕刊)

ACHP編集部

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