富士山深刻化のトイレ問題、「バイオトイレ」に注目

バイオトイレ設置の取り組みが本格化する富士山。河口湖畔にはラベンダー畑が広が
り、遠景の美しさは本当に素晴らしいのだが……。

◇微生物で分解、少ないエネルギー消費

深刻化する富士山のトイレ問題を解決するために、微生物の力でし尿を分解する「バ
イオトイレ」を設置する動きが広がっている。観光客を含め年間150万人近い人が
訪れるだけに、し尿問題は美観や環境保全の点からも避けて通れない。トイレ問題か
ら富士山「2000年夏」を報告する。

◇「白い川」作らないためにも

◆地元自治体
 静岡県の行政担当者や学識経験者などで作る「富士山トイレ研究会」(委員長・岩
堀恵祐静岡県立大助教授)が一昨年夏、富士宮口登山道の8合目にバイオトイレ2基
を実験的に設置した。1カ月間に約1800人の利用者があり、アンケートの結果は
「なかなか好評だった」(同研究会事務局を兼ねる県富士山保全室の料所(りょう
しょ)俊文室長)という。

この実験では(1)雨水が杉チップに入り込んで分解作用を妨げる(2)気圧が低い
ためにアンモニア臭がやや強い、などの難点も分かった。これらを踏まえて同県は今
月中旬、し尿処理方法が異なる3種類のバイオトイレを設置し、さらに実証実験を行
う予定。料所室長は「結果が良ければ、山小屋にも紹介して、富士山のトイレを改善
していきたい」と話す。

山梨県でも今年、富士山の独特な自然環境の中でどのようなし尿処理方法が有効かを
調べるため、「富士山トイレ処理システム調査」事業を予算化した。

今夏はまず、気象や地質などの現地調査を行ったうえで、日本アルプスなどの高地に
設置されているトイレとの比較研究を行う。

県観光課は「今後は検討委員会を設置し、コスト面も含めてどの処理方法が良いかを
検討する。バイオトイレは有力候補の一つ」という。

富士山には62軒の山小屋がある。そのトイレの多くは便槽にし尿をため、夏の登山
シーズンが終わった後に流して捨てる「放流式」。事実上の垂れ流しで、地下水など
への悪影響のほか、水に溶けないティッシュペーパーが山肌に残って「白い川」とな
り、景観を損ねるなどの問題点がここ数年、指摘されている。

◆環境NPO
環境NPO(非営利組織)の「富士山クラブ」も、バイオトイレの設置に動き出し
た。渡辺豊博事務局長は「自由な発想で問題解決に当たれるNPOの性格を最大限に
生かしたい」と意気込んでいる。

設置するのは、大阪府高槻市の「関西ピージーエス」社が開発し、同吹田市の「東陽
綱業」が製作したバイオトイレ。

高さ約3メートルの分解棟の両わきに男女のトイレを連結する。分解棟では、し尿を
混ぜてかくはんした水をバクテリア層に数回、通過させてアンモニア分などを取り除
いた後、約4立方メートルの杉チップの中を透過させてほぼ完全に分解する。最終的
に出てくる水はにおいがほとんどないという。昨年、「国営木曽三川(さんせん)公
園」で使用され、エネルギー消費も少ないと好評だったという。

今回、静岡県側の須走口5合目にある「東富士山荘」わきと、山梨県側の吉田口5合
目にある「佐藤小屋」付近の2カ所に各1基ずつ設置する。東陽綱業が無償で貸与す
るなど全面的に協力。環境庁の設置許認可を得たうえで、7月中の利用開始を目指し
ている。また、利用開始後は、整備や増設の資金に当てる目的で、1回の利用につき
100円のカンパを集める。

関西ピージーエスの鈴木實社長は「気温の高低差や突風、さらには登山者というより
も観光客が多いことなど、最も過酷な設置場所と言えるが、何とか成功させたい」と
話している。

◆山小屋
山小屋関係者も立ち上がった。静岡県側の富士宮口の山小屋関係者らは一昨年3月、
「富士山エコ・トイレ勉強会」を結成した。宮崎善旦会長は「世界的に有名な富士山
の景観を残し、豊富な地下水などの自然環境を守るため、トイレ対策が緊急課題」と
話す。

これまで「ポケットトイレペーパー推進キャンペーン」を活動の柱にしてきた。水に
溶けないポケットティッシュの中身をトイレットペーパーに替えた「ポケットトイレ
ペーパー」を登山口や山小屋で配布している。ポケットティッシュでは山肌に「白い
川」を作ってしまうが、水溶性のポケットトイレペーパーなら美観を損なわないから
だ。

今月2日には、トイレの改善策などについて考えるシンポジウムを、富士宮市宮町の
浅間神社で開催した。マナー啓発を望む声とともに、バイオトイレを含む「ハイテク
トイレ」についても議論が集まった。

最新式ハイテクトイレの開発には少なくとも1000万円以上の費用がかかることを
背景に、「国がもっと補助金を出す制度を作るべきだと思う。多くのトイレ製造業者
が参入すれば、良いトイレが安く開発できるのではないか」。トイレ開発に携わって
いるという参加者からは「技術的には高いレベルに来ており、コストの点で補助金な
どがあれば、多くのことが可能だ」という発言もあった。

◆日本は、もっといい国だ−−富士清掃登山

「富士山再生キャンペーン」の今夏目玉企画第1弾は7月22、23日実施の「富士
山きれいに(トーク)ショー&富士清掃登山」。22日のトーク(会場は富士吉田市
の富士五湖文化センター)は登山家・野口健さん、同・田部井淳子さん、女優・市毛
良枝さん、同・西尾まりさんが出演、富士山への思いなどを語る。23日は野口さん
らが参加者たちと6合目付近で清掃登山。

田部井さんは自ら代表を務める「日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(HA
T―J)」のメンバーと22日早朝、頂上付近で清掃活動をし、携帯トイレの利用に
も取り組む。下山後、トークに出演する。

(毎日新聞7月13日東京朝刊から)

ACHP編集部

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