日米のがん患者ら訓練中、目指すは富士山

日米のがん患者ら訓練中、目指すは富士山
 ボランティア含め総勢500人 

日米両国のがん患者たちがこの夏、富士登山に挑戦する。「生きる意欲をかき立て、
がん対策の必要性を社会に訴えよう」と、患者団体などでつくる「ガン克服日米合同
富士登山実行委員会」が参加者を募ったところ、応募が殺到。当初の見込みはボラン
ティアも含めて200人程度だったが、総勢500人にもなった。患者たちは主治医
の許可を得て、昨秋から富士登頂に向けて福島、東京、大阪、岡山、鹿児島などの山
で、それぞれ合同訓練を重ねている。

南に富士山を望む山梨県の大菩薩嶺(だいぼさつれい)(2、057メートル)。5
月中旬のある日、山頂近くで「お母さん、頑張って」という男の子の明るい声が響い
た。一歩ずつ、つえを突きながら山道を踏みしめる青木千賀子さん(38)=埼玉県
大宮市=を、長男正浩君(6つ)が励ます。

青木さんが左胸のしこりに気づき、摘出手術を受けたのは2年前。放射線療法を受け
ても体のだるさは続き、「転移したのでは」と不安になった。何かをやっていないと
気持ちが治まらず、富士登山への参加を決心した。毎月の合同訓練は少しおっくう
だったが、回を重ねるごとに「表情が明るくなった」と言われた。「200メートル
級の山から始め、登るたびに自信がついて気持ちが前向きになった」と青木さんはい
う。

参加する患者の中で最年少の町山長平(ますよし)君(8つ)=神奈川県小田原市=
は、青木さんの後ろでボランティアの後藤文子さん(59)と手をつないで歩いてい
た。

長平君は生後間もなく網膜芽細胞腫にかかり、目が見えない。後藤さんが「左に40
センチ下りて。次は50センチ。丸太が4本、寝てるから」と声をかけると、丸太に
向かって「起きなさーい」といい、周囲を笑わせた。

8月21日から2日間の予定で行われる富士登山は、米国の患者団体「乳がん財団」
が、登山を通じたがん患者の「生きがい療法」で知られる岡山県倉敷市の医師伊丹仁
朗さん(63)に「一緒にやりませんか」と呼びかけた。今回は米国の約50人を含
め、両国のがん患者約200人が挑戦。残る300人近くは、患者の家族や山岳会の
メンバー、看護婦、医師、医大生らボランティアの人たちだ。

準備に奔走する伊丹さんは「富士山の山頂という目標を持って、生活に張りが出てき
たという人が多い。前向きに、きょう1日を全力投球するという意欲が、人間の治癒
力を高める」と、富士登山の成功を祈っている。 (7月3日 朝日新聞 朝刊)

ACHP編集部

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