登山のゲーム化

世界最高峰のエベレストの最短時間登頂に、シェルパのバブ・チリさん(34)が21日
に成功した。ベースキャンプから16時間56分。普通の登山隊なら3〜4日はかかる行程
だ。

1953年5月29日に英国隊のヒラリー卿が初登頂した時は、一ヶ月以上かかった。

最近のエベレスト登山は、登頂ルートがほぼ決ってきた。ビル一つほども有る氷が落
ちてくる危険な氷河帯や、ヒラリー卿が命懸けで切り開いたヒラリー・ステップにつ
いても十分な情報が事前に手に入る。装備も軽くなり、登山もシステム化された。

登頂時間が年々短くなるのは自然の理である。競争も生まれる。「ヒマラヤまで来て
何をそんなに急ぐのか」との声も有るが、ようはエベレスト登山がゲーム化したの
だ。

バブさんの記録は同時に、シェルパ世界の様変わりを象徴してもいる。バブさんは優
秀な登山家を輩出してきた伝統的なシェルパ族の出身ではない。従来なら、下積み
ポーターに甘んじたところだが、持ち前のハングリー精神で登山シェルパを目指し
た。去年は、エベレスト山頂で一晩を過ごすと言う極限体験までしている。

伝統的なシェルパ村は近年、観光化し、危険な登山をしなくても、ロッジ経営などで
生計を立てられるようになった。バブさんの出番はそこにあった。

エベレストは変わらぬ雄姿を見せるが、取り巻く世界は移ろっている。(5月30日 朝
日新聞 朝刊 特派員メモ カトマンズ)

ACHP編集部

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