山小屋の「オヤジ」 外国人客もなじみに
●山小屋の「オヤジ」 外国人客もなじみに

富士山の5合目を「天地の境」と呼ぶ。そこに、冬の富士山に挑むアルピニストの“
家”佐藤小屋がある。

佐藤茂さん(72)は佐藤小屋の三代目。10代から小屋を手伝い、二男保さん(4
1)にあるじの座を譲ったばかり。だが「体調がよけりゃ山に入る。この正月も山で
過ごした。なじみの客に会えるのが楽しみなんだ」と言う。

なじみの客に近年、米、英、仏、独、ロシア、中国、韓国、デンマーク、カナダ、イ
ンドからの登山者がめだって増えた。「ヒマラヤやアルプスの経験者ばかり。何食わ
せたらいいのか、分かんねえけど」

なかでも、40歳代前半のイラン人は毎週のように土曜日に訪れる。通称デビッド、
東京都台東区のアパートに住んでいるという。「数年来のなじみ客だ。東京からタク
シーで来たこともある。3月下旬にヒマラヤに出発するとかで、冬富士登山はヒマラ
ヤの高度に慣れるためらしい」

山小屋の夕食は、うどんやすきやき、おでん、時には刺し身も出る。朝食は生卵と納
豆が定番。おかずを指さして外国人に「OK?」と聞く。「外国人は、すきやきを自
分で持ってきたパンにはさんで食べてる。納豆や刺し身は食べないね。デビッドだけ
は食べるけど」。英語と日本語ちゃんぽんで、山小屋は一段とにぎやかになる。茂さ
んは、せんべいの空き缶に思い出の写真をしまっている。空き缶に彼らの写真も加わ
ることだろう。

1964年、5合目まで富士スバルライン開通。夏の宿泊客はもっと上の山小屋を利
用するようになった。「天地の境」はさびれ、10軒あった山小屋は佐藤小屋も含め
2軒に減った。7〜8月の夏山シーズン以外は閉鎖される山小屋の中、佐藤小屋は特
別で、予約があれば開く。「秋はマツタケがドッサリ採れる。昨年は100本ほど。
それがメシに出るのを楽しみに来る客がいる」と言う。

冬はアルピニストのベースキャンプ、茂さんは彼らの“オヤジ”だ。冬の登山者はす
っかり減って、今 や国際的になったが、「スバルラインが積雪で通れねえ冬場だけ
は、昔ながらに1合目から登る登山者がまだ集まるよ」。

佐藤小屋は、2015年に100年目を迎える。

(2000年2月18日 毎日新聞 朝刊)

 ACHP編集部

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