東京・日暮里「富士見坂」

 富士見坂の「富士見」半減 マンション建設で住民が「守る会」−−東京・日暮里 「富士見坂」。

 東京都内には二十数カ所の富士 見坂があるが、今でも実際に山の全景を望めるのは 、荒川区西日暮里の「日暮里富士見坂」だけ。ところが、この眺望が、マンション建 築計画で消えようとしている。「『最後の富士見坂』を21世紀に残したい」と地元 住民や学識者が14日午後、建築主に対してマンションを 低くすることなどを求め た要望書を提出した。

 日暮里富士見坂は、長さ約100メートルで、標高差15メートルの急坂。空気が澄 んだ晴天の冬の朝夕には、雪に包まれた富士山頂とりょう線をくっきりと望むことが できる。明治時代には、富士山や筑波山、三国山脈を見晴らせる名所だった。

 ほかの富士見坂は、次々とビルや高速道路に囲まれ、富士山を見られなくなったが、 ここだけは唯一、山の全景を望める。15年ほど前から有名になり、カメラを手にし た観光客も集まるようになった。

 1997年には都市計画の専門家や区役所職員らが坂の眺望を保全しようと、「富士 見坂眺望研究会」(代表・寺門征男千葉大教授)を結成。これまでもビルの建設計画 の情報交換や、富士山の写真展を開催するなど保全活動を続けてきた。ところが昨年 11月、眺望に影響する場所に分譲マンションが建つことが分かった。

 計画によると、マンション予定地は富士見坂から約1・5キロ離れた文京区内の幹線 道路沿いで、地上13階建て(高さ38・4メートル)。昨年10月に着工され、今 年末の完成予定だ。同研究会がシミュレーションしたところ、完成後は左側りょう線 がほとんど見えなくなることが分かった。

 坂の周辺住民らは14日、「日暮里富士見坂を守る会」(小川幸男会長)を結成し、 マンションの階数を減らすよう建築主に要望した。同研究会事務局長の千葉一輝・早 稲田大講師は「坂からの眺望は、どこからでも富士山が見えた江戸時代の原風景を伝 える貴重な文化遺産。21世紀にどうにか残したい」と話している。

 これに対し、マンション建築主の不動産会社は「要望の趣旨は理解できるが、事業が 立ち行かなくなるので階数を減らすことはできない」と説明している。 (2000 年1月15日 毎日新聞 東京朝刊 )

 ACHP編集部


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