甲斐駒ヶ岳/赤石沢/Aフランケ/極楽トンボ

甲斐駒ヶ岳/赤石沢/Aフランケ/極楽トンボ


ARIアルパインクラブ/有持真人(単独)




1.日程  8月10日(土)〜11日(日)

2.ルート 甲斐駒ヶ岳/赤石沢/Aフランケ/極楽トンボ<V級・AA1/18P> (5Pまで登攀)

3.参加者 ARIアルパインクラブ/有持真人(単独)

4.行動  10日 駒ヶ岳神社 〜 8合目 〜 Aフランケ基部 〜 3Pまで登攀し下降
           0500 1230/1300 1430 1530〜1830

      11日 5Pまで登攀下降 〜 Aフランケ基部 〜 8合目 〜 駒ヶ岳神社
           0600〜1230      1300〜1400    1530     2200

  ★ 記録写真

5.登攀内容 

<10日(土)>

 朝方に、新ルートを開拓に行く河角、西沢の二人と駒ヶ岳神社で合流する。

 彼らは先週にクライミングギアなどをデポしてあるので荷物が軽いが、私は単独登攀ということもあって、
アメリカンエイドのギアだけでもザックが半分以上は占めており、35キロは越えている。これであの長い黒
戸尾根を登ると思うと嫌になってくる。

 大汗をかきながら7合目の小屋に到着、この先は一切水はとれないので、5リットルの水を補給する。これ
でザックは40キロを越えた。

8合目の岩小屋には、クライマーはまだ誰も来ておらず、我々が一番乗りの様だ。
Aフランケの基部までの下降は、かなり急な所もあり多くの場所にフィックスロープが残置されている。この
重荷でスリップすれば命はないので慎重に下る。約1時間半でAフランケの基部着。

 まだ日が暮れるまでに3時間近くあるし、とりあえず登れるところまで登ってフィックスをする事にし、登
攀準備を始める。

 いつもなら肩にずっしりと食い込んでくるクライミングギアのフルセットが、今日はやけに軽く感じる。ザ
ックの重さと比べたら当然か・・・・・。

 河角、西沢の二人も先週に試登してフィックスしてある新ルートに向かう。

 極楽トンボは1993年の8月に開拓された比較的新しいアメリカンエイドのルートである。
取り付きは赤蜘蛛、浮浪雲のテラスと同じで下部は浮浪雲と1ピッチ交差し、上部の終了点付近は、白綾会ル
ートをたどっている。核心は、4P目のオーバーハングのネイリングである。

1P IV(30m)

     取り付きに支点もないので、ザイルを引っ張りながらフリーソロで草付きのフェースを登り、灌木
    でビレーを取る。

2P III・AA1(15m)
 
     テラスで単独登攀の準備をする。今回は、ソロエイドを使用することにした。単独登攀は手順が少
    々やっかいなので、ミスのないように慎重に確認する。
     灌木の木登りからスタートし、こけむしたクラックにキャメロットを決めエイドが始まる。少し直
    上し、右上トラバースに入る、エイリアン、キャメロット、ピトンを使い右上する。浮浪雲の1P終
    了点に合流。トラバースが入っているので、振り子懸垂して取り付きに戻り、ユマーリングをしなが
    らクリーニングをする。

3P AA1(20m)

     浮浪雲の2P目と同じで、左上クラックを、フレンズ、キャメロット、エイリアン、ピトンを総動
    員して距離を稼いでいく。ギアをセットする場所をよく選んでいけば、しっかりと効いているので、
    緊張感は全くない。
     クリーニングが終了した頃には暗くなってきたので、ザイルをフィックスして懸垂下降し、取り付
    きに戻った。
     河角、西沢の二人は、まだ格闘している。結局下降してきたのは、午後8時を回っていた。Aフラン
    ケの基部でビバーク。

<11日(日)>

 今日は、天気も快晴で暑くなりそうである。水がどこまで持つか心配だ。

 昨日のうちに3Pまでフィックスしてあるので、取り付きまで全装備を担いで向かう。取り付きでは、山岳
同志会の二人が<流星群>を登るとかで登攀を開始していた。

 45mをユマーリングして、3P終了点に到着。ザックを荷揚げする。ロシア製でチタンのかなり小型のウ
オールフォーラーを使用したが、小型軽量でセットもしやすくお勧めの一品である。

4P AA1(25m)

     核心のオーバーハングは、スケール的には衝立岩の雲綾第2ルートの大ハング程度だろうか。なか
    なか迫力があり楽しめそうである。
     ここは取り付きがなかなかやっかいである。まず、ロワーダウンし振り子トラバースし左のクラッ
    クへ飛びつき、体がはがされる前にフレンズをセットしなければならない。

     ビレイヤーがいれば比較的やりやすいが、単独なので少々頭を使わなければならない。
    まず、だいたいの目安を付けて、ソロエイドからザイルを送り出しておき、バックロープを支点に固
    定する。そして、これで懸垂下降しソロエイドから送り出したザイルが一杯になったところで、振り
    子トラバースをする。3回ほどトライし、やっとフレンズをセットできた。

     しかし、ここでランニングビレーを取っていくと、メインザイルがビレーポイントより下部になる
    のでユマーリングが不可能になってしまう。仕方なく、支点を3箇所セットしたら、一番下のギアを
    回収して、次をセットする。そしてまた下部を回収する。この繰り返しで、ハングの直下まで登攀す
    ることにした。
     ハングの直下まで登ったときに、いかにも悪そうなフレークにフレンズをセットしなければならな
    い箇所がでてきた、思いっきりテスティングするとはずれそうなので、ゆっくりと体重移動し、次の
    支点をセットしようとした瞬間、フレークが崩壊して墜落、5mは落ちただろうか、下のフレンズが
    効いてストップした。支点が2カ所しかないので冷や汗物である。気を取り直して、登攀開始、フレ
    ークが崩壊してしまったので、花崗岩が砕けた様なボロボロのリスにロストアローを打ち、だましだ
    まし立ち上がる。抜けてしまわないうちに、次の支点をセットし、乗り移る。<ほっと一息>

     ハングは、下部、中間部はアングル、ロストアロー、バカブーの連打で、かぶった抜け口の辺りで、
    キャメロット、フレンズ、エイリアンを使う。ハングを抜けたすぐの所にペツルのアンカーが1本あ
    るので、ハンガーをセットし、ナイフブレード1本と一緒にしてビレーポイントにする。

     ここからの懸垂下降は簡単だが、ハングなのでクリーニングが大変だ。ザイルにテンションをかけ
    たままでは回収できないため、一つ上の支点にアブミをかけて体重を移し、支点を回収しなければな
    らない。アブミの上でアクロバットをやっているようだ。1時間かけて全て回収した。

5P IV AA1(25m)

     コーナーをフレンズ、ロストアロー、バカブーで直上する。10m近く登った所でいきなり衝撃が
    きた、気が付くとぶら下がっている。墜落したらしい。タイオフのバカブーが抜けた様だ。体は何と
    もないので再度登り返す。しかしソロエイドは支点さえしっかりしていればどんな墜落も確実にとめ
    てくれるので安心できる。

     上部は一部フリーになるが、以外と嫌らしい。ザイルを7mほど送り出しておいて、登るが微妙な
    バランスの所でザイルがでなくなってしまう。どこかに引っかかってしまったらしい。ここで落ちる
    とただでは済まないので<冷や汗タラタラだ>。深呼吸をして気を落ち着かせてから処理をする。

     その上は、ボロボロの岩に草付きがあり最後の7mほどが非常に悪い。時間がかかりそうだ。

         今日中に9Pの終了点の大テラスまで登らないと、明日のうちに完登する事はできない。
    明後日は天候が悪化してくるので、単独なので雨の中の登攀はリスクが多くなる。

     今日は、ヘッドランプを出して登攀すれば登れない事もないかもしれないが、考えた末安全を優先
    して、登攀を中止し懸垂下降することにした。無理をして墜落したらもともこもないし、3回目の墜
    落が止まるとは限らない。
     <流星群>を登っていた、同志会のパーティはなぜ降りるのか不思議そうにしていたが気にとめず
    に50m、2Pの懸垂下降でAフランケの基部に降り立った。

 <極楽トンボ>の単独初登は逃がしてしまったが、核心のハングを十分楽しんだので良しとしよう。5体満
足であれば、また来ることはできる。

 河角、西沢の二人は、ゆっくりだが確実に登っている。二人に別れを告げて、Aフランケを後にする。8合目
までの、重いザックを背負っての急登の登り返しは地獄の苦しみだった。
 ここまできたら一気に下山することにし、駒ヶ岳神社へと向かう。6時間半かかり駐車場に着いたときには
午後10時になっていた。体はボロボロ状態だ。

<ソロエイドについて>

 今回使用したソロエイドは、ザイル操作もしやすく片手でザイルを送り出す事ができる。墜落しても、ザイ
ルが流れることもなく確実に止めてくれた。ソロエイドを使用する場合は、サブザックにメインザイルを入れ
背負い、スムーズにザイルが引き出せる状態にして登るのが安全だ。

 エイドのルートならこれで問題はないが、フリーになると次の支点までの距離のザイルをあらかじめ送り出
したおかなければならないため、絶対に墜落しない自信が必要である。


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