雪積期登攀/質問(1)/回答<3>
伊藤@左京労山です。

  雪稜での確保について。

有持> いきなり振ってしまって申し訳ありませんが、左京労山の伊藤さんは冬季の八
有持>ツ峰を何度も登攀されていますがビレー等はどの様にされているのでしょうか?

  剱岳・八ツ峰の雪稜は、確保を行う上での技術的な困難性はありません。いくら鋭い
ナイフエッジでも、雪を蹴散らし踏み固めれば大きな穴になるので、その中にザックをお
ろしてその上に座って足を踏ん張ってハーネスに付けた確保器でビレイしています。
ただしビレイ場所の選択には気を使っています。雪庇を避けて小尾根の分岐するところ
など少しでも広いところでピッチを切ります。時には良い場所がなくコンティニュアスで
進むこともありますが腰までのラッセルで深い溝ができているので2人とも落ちることは
まずないと思います。ロープは50mを使っています。スタンディング・アックスビレイが必
要になるのは56のコルからの6峰の登りの雪壁くらいでしょう。それも1ピッチ目はハイ
松が掘り出せるので2ピッチ目だけです。どんな方法で確保する場合にでも言えること
ですが、とにかくトップが落ちるとすればどの方向かということを常に考えることが大事
です。

  3,4,6峰から各コルへの懸垂下降では、アンザイレンしたまま別のロープで懸垂し、
着地点の雪壁が不安定な場合に対処しています。先に降りた者が懸垂ロープから離れ
てさっさと安全な場所に移動し、そこから2番手を確保するのです。懸垂で直接コルに
降りられることは少なく、少しはずれた不安定な雪壁に降り立つことが多いので、この
方法は非常に有効です。

  剱の雪稜で難しいのは前剱東尾根の右尾根です。とにかく急で雪がフカフカなので
雪壁を直登できず斜めにランペを作りながら登らなければなりません。目の前の雪を崩
して一時的に傾斜の緩い状態を作り出して1歩稼ぐということの繰り返しです。急な部分
を1ピッチでこえられるようにピッチの切り方を工夫する必要があります。

  この尾根では、デッドマンとスタンディングアックスを併用したことがありますが、私は
座り込んでのビレイやスタンディングアックスビレイの時にはセルフビレイはとっていませ
ん。 もちろん、ダケカンバやハイマツ、縦走路の鎖が支点に使えればそれらでセルフビレ
イを取りますし、岩が出ていればピトンを打ちます。

  確保支点のない斜面のトラバースは極力避けます。尾根の上なら止められる可能性
がありますが、斜面で2人とも流されたらどうしようもありませんから。

                           左京労山 伊藤達夫

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