毎年3月と4月は個人の所得確定申告と納税の季節です。そこで所得税に関する説明コラムを2004年2月に、第373回と375回 「マレーシアで個人として税金を納める −前編と後編」 で具体例の形で載せました。
今年3月に「新聞の記事から」 に訳出した記事はマレーシアにおける個人所得税の理解に役立ちますので、一部を書き加えて再録しコラムの形で掲載します。4年前のコラムと合わせて読んでいただき、マレーシアの税金の仕組み理解に役立てていただければなと思います。
確定申告時に労働許可証があろうとなかろうと、対象年度に所得があれば外国人ももちろん対象になります。ただある年度の途中にマレーシアでの勤務を終えて日本など他国へ行く人は、その時点つまりマレーシアを去る前に所得を確定させて税金面を片付けなければなりませんので、翌年3月4月の確定申告は関係なくなります(退職してまたマレーシアで就職したり個人ビジネスを始めた場合は除く)。
日本から派遣、現地採用に関係なくいわゆるエクスパトリエイトの日本人は課税対象になり、確定申告義務があります。ただし会社が代行している場合が多いでしょうから、内容を気にしない方も少なくないことでしょう。尚エクスパトリエイトは例外なく課税対象です、なぜならその給料が年間 RM 24,000 程度という条件では労働許可証がおりないはずだからです。
”マレーシアは第2の我が家” プログラムの参加者の中にも法律上は申告義務が発生する場合が起こります。だからプログラムの公的説明文書には、税金に関してはマレーシアの法律に従うとさらっと書かれていますね。ただしマレーシア政府官庁は、プログラム参加者から課税されるのではと捉えかねられないという”誤解”を恐れてでしょう、そのことを全く強調していません。さらに参加者で進んで確定申告する人はごくわずかでしょう。こういった事情から、多くの”マレーシアは第2の我が家” プログラムの参加者は納税者番号自体を取得していないと、私は推測しています。下記でも説明されていますように、国外からマレーシアに持ってきたお金は課税対象になりません。
課税対象となる人は税務庁宛てに前年度所得の確定申告をしなければなりません。課税程度は申告した所得と控除と軽減額に基づきます。例えば、独身の被雇用者で年間所得RM 27,000ある人で、控除額が基本控除及び被雇用者福祉基金納付金だけの場合は、課税対象となります。 初めて確定申告する人は、税務庁にまず納税者登録しなければなりません。その場合は、身分証明またはパスポート、雇用者からの前年度所得証明書(EA書式)、(配偶者がある場合は)婚姻証明などを税務庁に持参して登録します。
ある個人において、その人の個人控除額を差し引いた後の額に対して課税されます。その場合の課税所得額は RM 2500から始まります、最初のRM 2500は税率 0%、次いで RM 2500毎に税率が増えて、最高28%です、つまり課税所得 RM 25万以上は一律に28%となります。 税法上の非居住者個人は、その所得全体に一律 28%の税率となり、控除は一切ありません。
納税者で申告用紙を3月までに受け取らない人は、4月14日までに自主的に税務庁へ行き用紙を入手しなければなりません。確定申告用紙は 税務庁の所定の部署に決められた期日までに提出しなければなりません。
申告用紙 | 申告者の内容 | 提出期限 | 納税期限 |
B書式 | 居住者でビジネス所得のある人 | 6月30日 | 6月30日 |
BE書式 | 居住者でビジネス所得のない人 | 4月30日 | 4月30日 |
M書式 | 非居住者 | 4月30日 | 4月30日 |
去年までに確定申告を e-Filing と呼ばれる電子申告方式で行った人には、もはや紙の申告用紙を郵送しません。紙の申告用紙を今年受け取った人で、電子申告方式に切り替える人は、手続後そうできます。(注: e-Filing の話題は下段に載せています)
確定申告を怠った人には、法律に基づいて罰金または懲役を科せられます。
被雇用者は源泉徴収税率表に従って、毎月源泉徴収されることになっています、これを通称 PCB と呼んでいます。 雇用者は翌月の10日までにこの徴収額を税務庁に振り込む義務があります。給与所得以外に所得ある人は、その所得に対して課税され、その場合は翌年3月から 6回の2ヶ月毎の均等納税となります。
源泉徴収不充分などで収めてない税金がある場合は、上記表のように4月末または6月末までにその分を収めなければなりません。納税は、税務庁本庁カウンターで収める、申告用紙に小切手を同封する、または特定銀行の窓口で納めます。納税遅延は最高15%の追加となります。
マレーシア国内をで源泉とした所得は、特例を除き、全て課税対象になります。外国を源泉とした所得でマレーシアに送金されたものは課税対象になりません。
以下は個人にとって課税対象となる所得の分類です:
交通費、娯楽費などにおいてある程度は控除を認められることがありますが、それをビジネスの必要経費であるとして税務庁に証明しなければならないのは納税者側です。
課税対象外として報告しなくてもよい給与用所得には次のようなものです:
配当金収入
外国の配当金
利子所得
家賃所得
家賃所得は申請する必要があり、通常これは投資収入としてみなされます。家賃所得のための費用として認められるのは次のものです:
賃貸による損失は、他の所得から発生する税と相殺することはできません。
ビジネス所得
ビジネス所得は次のものを差し引いてから課税対象所得となります:
もっぱらビジネス所得を生み出すためだけに発生した全ての費用と出費の説明:
その納税者が固定資産を所有し申告対象時期の終わりにおいてもビジネス目的に使用しているという条件を満たせば、資本控除を請求することができます
個人控除が認められるのは税法上のマレーシア居住者だけです、そしてそれは総収入から差し引かれます。控除には次のようなものがあります(証明書類が必要):
課税額から戻し税が差し引かれます。戻し税額は:
ある個人は次の条件のどれかを満たせば居住者と見なされます:
その他細かい規定は省略します
課税所得において、最初のRM2500は 税率 0(つまりRM 2500までなら所得税なし)、その次ぎのRM 2500は 税率 1%(つまり RM 5000の人は税金 RM25)、 その次のRM15000 は税率 3% (つまりRM2万の人は税金 RM 25 + 450= 475 )、こうして計算していきます、途中省略。 最後は RM25万の人で 税金 RM 54975 です、RM25万を超える所得は 一律28%の最高税率となります。次の計算表をご覧ください。
課税額 RM | 税率 | 税額 RM | |
最初の額 | 2,500 | 0 | |
次の額 | 2,500 | 1% | 25 |
最初の額 | 5,000 | 25 |
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次の額 | 15,000 | 3% | 450 |
最初の額 | 20,000 | 475 |
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次の額 | 15,000 | 7% | 1,050 |
最初の額 | 35,000 | 1,525 |
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次の額 | 15,000 | 13% | 1,950 |
最初の額 | 50,000 | 3,475 |
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次の額 | 20,000 | 19% | 3,800 |
最初の額 | 70,000 | 7,275 |
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次の額 | 30,000 | 24% | 7,200 |
最初の額 | 100,000 | 14,475 |
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次の額 | 15,000 | 27% | 40,500 |
250,000 | 54,975 |
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25万を超える額 | 250,000 | 28% |
3月後半の新聞に次のような記事が載っていました。
まずマレーシアの税制では、税還付を申請するためだけに確定申告が必要ということではなく、所得課税対象者は源泉徴収がされている、されていないに関わらず、全員確定申告の必要があるということです。なお、例えば月給がRM1,000ぐらいの人は、その低所得額ゆえに最初から課税対象にはなりません。
そこで上記で言及されている、個人の確定申告者がたった300万人という数字に驚きます。国民人口2600万人の国で、この数はいかにも少ないのではないでしょうか。国民人口中20歳以上の人口比は 約57% と計算されますので、2007年の国民人口2600万人弱の57% は大雑把に1500万人弱になります。この内、学生、無職・失業者、家庭主婦、退職者・高齢者などの人口を差し引いても、300万人強という数字はいかにも少ないと思われませんか。ちなみに関連した数字を示しますと、国民労働人口は1100万人強、その内公務員が約110万人です。
確定申告すると、被雇用者福祉基金の納付も控除されますので、独身者なら大まかに年収約 RM 2400以下は課税されませんし、夫婦子供のある人は控除額が増えて課税最低限がもっと上がります。従って給与受領時に源泉徴収されていても、申告時に税還付を請求しそれが認められれば後日に税還付があって、実質的に所得税がゼロになる人が結構でてきます。税務庁の幹部が明らかにする数字によれば、 2006年度所得及びそれ以前の所得申告に対する2007年の税還付件数は、392,000件で、その合計額はRM53億でした。この数字は税還付申請処理件数の約8割にあたり、2割は申請に不備や疑いがあり還付に至らなかったとのことです。
こういう人たちを含めて確定申告対象者が300万人強というのは、いかに所得捕捉率が低いかを示す数字だと思わざるを得ません。相当な数になる小規模個人事業者、その内のかなりの割合であるいわゆる屋台商売人はどれくらいの申告者数なんでしょうね。農民漁民の申告者数がかなり低いことはニュースなどからもよく感じます。 企業に雇用される被雇用者の場合が一番所得を捕捉しやすいというのは、多分どこの国でも事実でしょう。 私は税の専門家ではないですが、こういった事実を知るにつけ、税負担と納税の公正さの面から、労働人口における非雇用者に対する税捕捉の向上が必要であると、いつも感じます。
私は今期 e-Filng で確定申告したのでそのことを、3月21日のゲストブックに書きました。そこで最後にそれをここに再録しておきます。