予防注射の必要性を考える


予防接種に関する質問、読者からのアドバイスなどが時々「何でも伝言板」と「旅の掲示板」の両方に書き込まれます。そこで私も考えてみました。


予防接種に関しては、これまで5年ほどの間に何回も話題になったことがあり、決して珍しい種の書き込みではありません。初めてでかける外国だから、東南アジアだから、米国滞在したことがあるがマレーシア初めて、旅行はあるけど滞在は初めて、などなどとその理由は各種あれど、それに共通するのは心配だというものでしょう。それはある意味では当然だと思います。心配する方に、そんなことは取り越し苦労だと説得するのも、一つの方法です。私も時々そう書きます。しかしそれだけでは不充分であることも知っています。なぜなら心配される方がなぜそういう思いになるかというところを考えると、心配させるような情報が、マスコミ、知人、うわさによって植え付けられているからです。こういったマスコミ情報、聞いた知識に打ち勝つのは、まことたいへんです。

じゃあ、マスコミ情報や聞き情報は皆間違いかというと、そんなことはありえないでしょう。ただマスコミ情報は、問題あった時に伝えるのが常なので、知らない人がそういう情報に接するとその問題が強調されて感じられます。つまりこんな病気が流行っている、なりやすい、怖いということになるでしょう。普通に人々が生活している様子は、あまり報道されない、報道されても読む人はそういうことに印象を受けないので、覚えていない、というのが一番の理由です。世の中多くの国では普通に生活している方がはるかに多いのです、伝染病などに感染して暮らしている方が少ないのが普通です(一部の不幸な国を除けば)。そしてマレーシアは普通に生活しているのが常態の国です。

90年代初期のことです。日本へ行ったとき献血しました。私は昔から献血者ですので。そこで献血前の質問表にある、最近行った事のある外国 を書く欄に、に何の気なくマレーシアと記入したら、血圧を測る医師が、「えーと、マレーシア? マラリア要注意国ですね」と手元にあるWHOの資料を見て、あれこれ質問するではありませんか。マレーシアの一般生活でマラリアを心配している人などいませんし、普通の医院で患者にマラリアの質問など絶対にありえないでしょう。日本の赤十字では、マレーシアはマラリア注意国に分類されているのだなとその時知りました。あほらしいので、その後献血では 最近行った事のある外国 の欄は何も書き込みません。

WHOがなぜマレーシアをマラリア注意国に指定しているか、それは多分マレーシアでマラリア患者が年間数万人単位で出ているからでしょう。そうです、患者数から言えば、マレーシアでマラリアは大きな伝染病の一つです、これは他の東南アジアの国と同じですね。マラリアは世界で最も患者数の多い熱帯病の一つで、その対策が極めて難しい病気だと言われていますね。ただマレーシアの場合は、その感染者の出る地域と感染者がたいへん限定されているのです。マレーシアの都市部、町部、通常の村でマラリアの患者が出るのは極めて例外的でしょう。マレーシアのマラリアは限られた地方でまたは限られた職業についている人、またはそういう地域のトレッキングなどをする人が心配しなければならない病気です。普通の町や村に住むマレーシア人に、マラリア予防薬を飲んでいますか、などと質問したら笑いものにされますね。

マラリアよりももっと広範囲にマレーシアで影響あるのはデング熱であり、これは都市の住民でも地区によっては多いに関係ある病気です。といって、例えばクアラルンプールのあちこちで満遍なく発生しているかといえば、これも限られた地区であり、全くそんなことを心配する必要がない地区のほうが多いのです。

コレラは時々地区限定で発生のニュースがマスコミで伝わります。コレラ発生は決して晴天の霹靂ではありません。じゃあといって、コレラの予防注射をしている人を探す事は不可能です(発生地区で集団的に行う場合は別)。コレラを心配しながら暮らしている人は皆無に近いでしょう。私は昔々タイへ通いはじめた頃、日本でまたはバンコクでコレラの予防注射を数回したことがあります。いつも屋台などで食べてるので当時多少心配したからです。しかしその後、そんなこと全く気にならなくなり、予防注射など止めました。

今私の手元に成田空港検疫所発行のパンフレット「海外感染情報」があります。成田空港のコーナーで無料配置されているものです。マレーシアと題されて、そこにはこう書いてあります。
「マレーシアでは、コレラ、赤痢、腸チフスや肝炎などがよくみられます。マラリア、デング熱、日本脳炎など蚊によって感染する病気も発生します。マレーシアでは次ぎのような病気がみられます。
腸チフス、A型・E型肝炎、コレラ、赤痢、食中毒、寄生虫疾患、マラリア、デング熱、日本脳炎、フィラリア症、リーシュマニア症、B型肝炎、狂犬病、エイヅ」
以下文章は省略

じゃ、一般旅行者は滞在者はこれらの病気に感染しないように常に心配していなければならないだろうか? まさか、こんなことをいつも心配していたら、毎日の生活も旅行も全く楽しいものにならないでしょう。しかし全く気にしなくていいとも言えません。現にそういう病気が発生し、苦しんでいる患者もいるからです。

医療関係者や空港検疫所のような公的な機関は、職業柄当然注意することを強調しますよね。彼らはその道の専門家ですから、その情報と意見は拝聴すべきだと思います。ただ旅行代理店などが言うのは、単に責任逃れしたいからであり(その原因は旅行者の過剰要求ですが)、考慮など入れる必要はないでしょう。しかし例えば、ここに挙げられた病気の全ての予防注射をし、予防薬を飲んでいる人は、ごくごく少数でしょう。(世で入手できるすべての予防注射したら身体に負の影響はないものでしょうか?)

どの病気に対して予防策を取るかは、あくまでもその旅行者または滞在者の行動様式に基づいて決めるべきだし、その判断は個人だということです。だから私は、必ずあれをしなさいとか、全くする必要がないとまでは書きません。身体に負の影響なく、適度な価格でできる、入手できるのであれば、予防策をとっておいて悪いとは思いません。私もそうしようかなと思うことがある(A型B型肝炎予防など)。しかしマラリア予防薬のように、身体に負の影響が出やすいものは、よっぽどでない限り接種したくない、(これまで飲んだのは田舎へ行くつもりだったラオスとサファリした南アフリカでだけです、予防薬は強いので、多少の副作用が感じられました)

狂犬病予防みたいなのは、私のように街をしょっちゅううろつく人間には必要かもしれない。こうして考えていくと、日本脳炎も、腸チフスも、破傷風も、さらにあれもこれもなどと数々の候補が出てきます。といってそれらを全部して問題ないだろうか?費用がばかにならない、などから結局とりたて予防策はしていません。しかしこれまでそういった病気にかからなかったから、これからも大丈夫などといった、脳天気な感覚は持ち合わせていません。病気はどこでいつ罹るかもしれません、それは旅を長年本気でやってきた人間として、よく心得ています。

やはり上にも書いたように、予防接種などは最後は個人が個人の責任で決めることですね。Aという予防注射は受けた方がいいと思う方で手近にそれができれば、した方がいいというありきたりの答えに行きついてしまいますね。

以上は2002年6月初め記


デング蚊に関する大衆の誤った思い込み

流れている下水溝に蚊は卵を産めません。家庭内にも花瓶とか水タンクなど蚊の繁殖する容器があります。

それはデング熱かもしれないが、以前さされたせいによるのです。デング熱は5日から8日からしてから症状がでます。症状とは高熱と、筋肉、関節、眼球、頭に痛みが起こる、吐き気、吐く、食欲減退、皮膚のかゆみです。
またすべてのデング蚊がデングビールスを持っているわけではない。

デング蚊は長距離を飛べない。繁殖地から半径50m以内で行動する。100mを超えることはほとんどない。ですからちょっと離れた近所でデング蚊が繁殖していても、即危険と言うわけではない。

98年10月記