マレーシア人と結婚した場合の滞在地位と職と居住権


しばらく前のこと 「今週のマレーシア」 の98年11月と12月分に載せた第118回目のコラムで、日本人がマレーシア人と結婚した場合の、仕事、居住、権利などについて書きました。このうちごく最近 2001年8月に国会が、連邦憲法の8条に残っていた男女の性差別に結びつくような言い回しを改める政府の提案を採択し、この部分の憲法が即改正されたことから、マレーシア人と結婚した外国人の地位にもいくらかの変化、好転というべきですが、がでてきました。

そこで98年末に書いたこのコラム 「マレーシア人との結婚は即居住権獲得とはならない」 を下記にまず再録し、ついで今年8月に起こった男女平等と、マレーシア人と結婚した外国人に関わる法律上の変化とニュ−スをここに掲載しておきます。

最終更新2005年5月27日、初掲載2001年8月30日


マレーシア人との結婚は即居住権獲得とはならない


どこの国でもその国の永住権を取るのはかなり難しいものです。国籍つまり市民権となればなお更ですね。日本はこの点では難しい国に入るのではないでしょうか。

さてマレーシア人と結婚している人又はこれから結婚しようとする人さらには将来結婚を考えている人は案外いらっしゃいますね。筆者はこれまでに、こういう方から何人もメールをいただきましたし、そういう方の発言を読んだこともあります。

そこで上記の方々のお役に立つことも願って、この市民権と永住権のことを少し考えてみましょう。筆者のこれまでの知識と経験と新聞の記事とインターネットの情報を基にして書きますが、調査がちょっと不十分かもしれません、もし間違いとか勘違いがあれば遠慮なく指摘して下さい。

間違っている多くの人の思い込み

さてまず気が付いたことは、マレーシア人と結婚すると自動的に市民権又は永住権がえられると思い込んでいる又は漠然と思っている人が多いということです。こういう思い込みは日本人だけでなくマレーシア人にも結構多いのです。そこまではいかなくても、日本人はマレーシア人と結婚すれば無条件にマレーシアに滞在できるものだと思っている方、マレーシア人にも日本人にも多いのです。

実際筆者もかってマレーシア人からよくこう言われたものです(今はもう関係ない)。「結婚してるから永住権取れるでしょう。」と。これを含めて上記の思い込みはすべて間違いです。

初めに結論を書いておけば、マレーシア人と結婚しているということだけで、自動的に市民権が得られる、市民権獲得の条件が整った、永住権がえられる、永住権はないが無条件に滞在できる、滞在できて無条件に働ける、ということはいずれもありません。

注:ここでいう結婚とは、マレーシアの結婚登録局に届けて結婚証明書を得たという意味です。日本でマレーシア人と結婚して市役所に届けても、マレーシア人配偶者がマレーシア大使館に届けなければ、そのマレーシア人はマレーシア国の法律上結婚しているとはみなされません。その逆でも同じ、つまり日本人がマレーシア人とマレーシアで結婚しても日本大使館に届けなければ、日本の法律上では法的結婚になりませんよね。

尚マレー人と結婚するためには、配偶者予定者はあらかじめイスラム教に入信しなければなりません。日本大使館届け時にもこの証明書を要求されます。これはマレー人は即ムスリムですから、ムスリムにはイスラム法が適用されるからです。ムスリムであるインド系マレーシア人と結婚する場合も同様のはずです。

市民権供与への政府の方針

政府の高官が言っています。「政府はマレーシア人と結婚した外国人移住者に市民権を与えるつもりはない、ただし憲法に定める条件を満たせばべつだ。」と。

これはマレーシアだけでなく多くの国でも似たり寄ったりの面がありますね。西欧でも市民権獲得には複雑な要件と手続きが必要ですし、日本国も日本人と結婚しただけでは外国人に市民権を与えていません。しかし確か10数年前に市民運運動が実って、日本人と結婚している外国人は無条件に日本に滞在できるようになりましたし(必要書類を提出後、1年ビザを取得し更新できる、と記憶してます)、そうすれば特別許可を受けなくても合法的に働けます。つまりこの面では日本はマレーシアよりもずっと開かれています。

法律面から見る

マレーシアでは配偶者の滞在ビザ、永住権獲得、市民権獲得に関して、2種類の法律が外国人配偶者に適用されます。

憲法の市民権に関して第3部、第15条

第18条を前提にして、マレーシア男性と結婚した外国人女性は、連邦政府に申請すれば、以下の条件の基で市民として登録できる。(つまり市民権を得られる)

A)その女性が市民権申請する日に先立って、マレーシアにつづけて2年住んでおり且つ永久的に住むつもりである、さらに
B) その女性はよい人柄であること

夫が外国人の場合は明記が無い

このようマレーシア人男性と結婚している外国女性の市民権取得に対しては一応このように明記した条文がありますが、驚くなかれマレーシア女性と結婚している外国人男性の立場について憲法は言及しておりません。
これを知った時私はなんでと憤慨せざるを得ませんでしたし、多くの外国人男性も同じ気持ちでしょう。

そういう男性は法律に規定がありませんので、普通の外国人と同じく社会ビザで認められた期間はマレーシアに滞在し出入国を繰り返すか、又は独自に労働ワークパーミットを入手しなればなりません。つまりどこかのマレーシア企業、合弁であれ日系であれマレーシアで設立登録した会社、又は政府などの公的機関に雇われるか、あるいは投資という形で自分で出資し又は合弁で事業をはじめなければなりません。

「その外国人男性に対して、法律上にどうすれば長期ビザを与えるかのきめが無いばかりでなく、永住権には全く触れていません。移民庁(日本でいう出入国管理庁にあたる)の対応は、その男性の立場とか資格経歴により判断するという、極めて恣意的なものです、」という新聞の指摘に筆者も同意します。

妻が外国人の場合

ところがマレーシア人男性と結婚した外国人女性は、永住権を取得しやすいのです。長期の社会ビザ、1年、を認められやすくその上、5年間マレーシアに住めば永住権申請の権利が得られます。ただし自動的に永住権を取得できるということではありません、要件が整えば夫が外国人妻に替わって申請するのです。

以下は Imigresen移民庁のインターネットサイトに載っているものを訳しました。

マレーシアに永久的に居住しようとする者はまず入国許可証を得る必要があります。ある範疇に当てはまる者だけがこの入国許可証を得る資格があります。それを発行することは権利でなく単に適格性があるということなのです。この範疇とは1963年移民法に定められおり以下に示します:

以上Intraasia訳。

これはあきらかに男女差別の現われですね、つまりマレーシア人男性と結婚する外国女性に対しては比較的寛大で、その裏の意識は女性は男性に養われるものだという考えです。一方マレーシア女性と結婚する外国男性には居住権の保証が無いということです。一見女性が恵まれているように見えますが実態は少し違います。マレーシア男性と離婚した場合、その女性は、もし永住権を獲得してなければ、マレーシア滞在権を自動的に失うのです。つまりこの時点でマレーシア法の保護から外れるわけです。

ここで時々問題なるのは、離婚した外国人がまだ永住権を取得してないと、子供はマレーシア国籍なので、母親と子供が離れ離れになりかねないことです。

外国人配偶者への雇用許可

なお1996年に、マレーシア人と結婚した外国人配偶者、こちらは男女問わずです、に雇用面での救いの手が作られました。
これも移民庁のインターネットサイトから訳しておきます。

マレーシア人と結婚している外国人配偶者に与えられる雇用許可証
発行条件

以上Intraasia訳。

2005年追記
2005年時点でImigresen ホームページに掲載されている該当部分を一部コピーしておきます。

Employment Pass for Foreign Husband/ Wife That Married With Malaysian Citizen or Expatriate Officer ( Spouse Programme)

This program is launched on 13th February 1996, its objective is to give approval for foreign citizen dan became husband or wife of a Malaysian citizen to work. This conveniance is coresponding with the goverment hope to welcome foreigner attendance for their working expertice dan experience for development progress of the country.

Applicants must have permanent working offer and could not work in own company.

Intraasia注:もちろん自分が投資者として数百万リンギットの会社を設立すればそれは投資家としての永久パスが取得できますから、これとは関係ないですね。ここでいう会社とは数百リンギットの資本でできる個人事業主型会社を設立してその中で働くことはできないということです。

女性団体が法改正の要求

現在のマレーシア移民法(出入国管理法)は、配偶者を自由に選ぶという基本的権利を抑制しています。外国人男性と結婚したマレーシア女性という言葉が含意することは、二人は夫の居住地に住まなければならないということです。この婚姻のおかげで、その女性つまり妻は母国マレーシアとの関係をあきらめなければならないのです。(98年12月9日付けThe Starの指摘から、つまり筆者の解釈では、夫はマレーシアでの居住権がないから、夫はいずれ夫の国へ戻り妻はそれに従わざるを得ないということでしょう)

これを改めるよう女性団体は永年政府に要請してきたのです。例えば、「マレーシア市民の”配偶者と18才未満の子供” がもしそのマレーシア人といっしょにマレーシア入国する場合は、許可又はパスを得る必要がない」というようにです。現在の条文は”マレーシア市民の妻は”となっているようですから、夫がマレーシア人で妻が外国人なら許可は要らないということですね。これが意味するのは上記で見たように、妻がマレーシア人で夫が外国人なら許可又はパスが必要ということ。

全国女性評議会は、移民法条文中の「妻」という単語をすべて「配偶者」に置き換えるべきだ、と提案しています。こうすれば夫が外国人でも妻が外国人でも扱いは同じになるわけですから。

日本の場合は80年代に出入国管理法が改められて、日本人の配偶者は、つまり妻でも夫でも、ほぼ自動的に日本に滞在できますよね、マレーシアはまだこういう平等思想を適用しておりません。

マレーシアにまだ根づかない考え方

こういう思想は残念ながらまことマレーシアに根づかないようで、日常の会話でであったことがありません。こういうことに関しては、イスラム教もヒンヅー教も儒教も宗教の施行面では、西欧平等思想の後塵を拝していると思わざるをえません。もっともイスラム原理主義にいわせれば、そういう平等思想そのものが西欧的であり受け入れられない、ということになるのでしょうけど。

こういう批判に対して、いやその教義では男女の真の平等を認めている、ちゃんとそう書かれている、という反論がありますが、しかしある宗教がその教義通り100%適用される社会は存在しませんから、その宗教が現実社会に適用されているつまり実際に行われている状況を見るべきです(学問としての宗教論争は別です)。そうでないと異教徒のその宗教に対する教義批判になり、それは絶対に宗教者の認める所でなく且つ終わりなき争いを生む源になるからです。

ですから筆者はこの場で教義批判はしませんしそのつもりもありません、それに宗教教義に精通しているわけでもありませんから。単に現実社会に現れた現象を考え論じ時には批判しているのです。



次は新聞の載った記事を引用します。(その時点で掲載したものです)

2001年8月2日:憲法の性差別を修正する

性差別をなくすために、連邦憲法(の条文)に存在する男女差別の部分を改めるという法案を、国会Dewan Rakyatで与野党一致で可決しました。これは2日間の審議の後で、出席していた全国会議員が賛成したのです。連邦憲法の修正に必要な定足数は、Dewan Rakyat全議員の3分の2、つまり128人になります。

法案を説明した内閣府の大臣は、「性が差別の手段として使われないよう我々は確実にして行きます。」 一方国会議員は、もし法律と政策に残る差別的な部分がそのままにされたら、憲法修正は意味のないことになってしまう、と論議しました。ある与党議員は、「マレーシアには現状にそぐわない法律が残っている。それらは植民地時代に取りいれたもので、性差別を残している。」と。

2001年8月26日:外国人配偶者に関する性差別を撤廃

外国人男性と結婚したマレーシア人女性に関する厳しい出入国管理法上の条件を廃止する、とアブドラー副首相兼内務相が発表しました。「外国人と結婚したマレーシア人は男女の間でいくつかの面において違った出入国管理法上の扱いを受ける事になっている現状を政府は考慮したのである」と副首相は女性の日の祝典会場で述べ、「マレーシア人女性からどうしてマレーシア男性と違って扱われるのかという苦情を沢山受けた。これは不公正なことだ。だから、今後は男女間でそういった差別はないことを宣言する。」

「最近連邦憲法の8条で性差別の条項を改めたことに従って、この対策は出入国管理庁を通じて内務省がとります。重要な事は、性差別をしている政策、法、規則を、この憲法修正に基づいて、見なおし修正して行く事だ。」 

現状では外国人配偶者が永住権を申請する時には出入国管理法に関わっていることは周知の事です。女性と家庭発展省の女性大臣は、「これは国内の性差別に戦っている省にとって成果です。」

2001年8月30日:外国人配偶者も職を得られる

出入国管理庁Imigresen が9月から導入する規則によれば、マレーシア人と結婚した外国人は、(独自に)職を求める事ができるようになります。この規則の中には、外国人夫に職を見つけるまで長期滞在ビザを発行する(毎年更新)、外国人妻の滞在に関することなどがあります。

これまで外国夫はマレーシア女性と結婚してその後マレーシアに来ても、社会ビザのために(そのビザのままでは)職につくことを許されていませんでした。外国人夫で高学歴又は高資格を持っている者は、Expatriate又は Professionalのカテゴリーに属する職を得るようにと、内務省の長官が勧めています。ただこれは外国人労働者として入国してきたマレーシア女性を配偶者に持つ者には適用されません。

マレーシア男性と結婚して、マレーシアに住み子供を持つ外国人妻が離婚した又は離婚手続き中の場合は、上記の改正規則が適用される予定です。「通常外国人妻は年更新の社会ビザを得ます。そして働いていなければその後5年経てば(建前上)永住権の申請ができます。」 そこでこういう子供のある外国人妻には、年更新の訪問ビザを発行する予定です。
永住権は自動的に与えられるものではない、内務省の自由裁量である。という内務大臣の発言がありました。

2005年5月27日の新聞投書から  女性に不公平な法を改正しよう

”変化を求める女性センター ペナン”は、自分の子供に国籍授ける点で女性の権利を否定するような差別的法律に光をあてたい。
連邦憲法の14条 (1)(b)では、マレーシア人女性はマレーシア国外で出生した彼女の子供に市民権を与えられないと定めてあります。よってマレーシア国外で子供を産むマレーシア人女性は、その子供にマレーシア国籍を継がさせられないのです。つまりその子供は父親の国籍を自動的に取得するのです、父親がマレーシア人であれ外国人であれです。

これは極めて不公平です、連邦憲法の8条(2) が性別による差別を禁止しているにも関わらず、なぜこんな条項がいまだに存在し、マレーシア女性を差別するのか明らかでない。性差別はこれに留まらない。

連邦憲法15条(1)では、マレーシア人女性の夫である外国人夫が永住権を取得するための規定はありません、一方マレーシア人男性の妻である外国人妻の場合は規定がある。配偶者に与えられる扶養者ビザはマレーシア人男性の外国人妻だけに与えられ、マレーシア人女性の外国人夫には与えられない。

マレーシア女性がその働きと美徳で褒め称えられ続けているにも関わらず、皮肉なことにマレーシア人女性は法律のある分野では不公平に扱われたままです。男女差別を禁止する連邦憲法の8条(2) に沿って、我が国の法が改正されるのはこの先どれくらいかかるのであろうか?

我々はマレーシア人女性が二級市民でありつづけないように差別的な法を改正することを国会に要請します。
”変化を求める女性センター ペナン” 代表


ひとこと
このように出入国法と規則が変わっている最中で、確定した状況にはもう少し時間がかかりそうです。尚現在でも外国人配偶者は、配偶者としてでなく、どこかの会社が雇ってくれればマレーシアで労働できることになっています。



次ぎに、たいへん参考になる記事ですので、日本人夫を含めた外国人と結婚したマレーシア女性の立場からの新聞相談記事(2002年9月7日付け)を翻訳して掲載しておきます。

マレーシア女性と結婚した外国人(日本人を含む)夫のビザに関する相談 

ペナン消費者協会が新聞社と共同して、法律顧問の意見を基にして読者の法律相談に答えるページから
質問:私(マレーシア女性)はフランス人男性と結婚しフランスに数年住んだ後、私たちはマレーシアに戻りました。夫は3ヶ月の社会訪問ビザ(観光ビザ)を得ました。彼はまだ仕事を探しています。
夫の長期滞在ビザを申請するために私はどのようにしたらいいのでしょうか?1回に申請できるビザの最長期限はどれくらいですか?

返答:出入国管理庁Imigresenによれば、妻としてのあなたが月収RM2000以上を得ており且つ彼のスポンサーとなりうるのであれば、あなたの夫は最長6ヶ月間の社会訪問ビザを申請できます。そしてそのビザが6ヶ月経過した時点で、あなたは再度ビザを申請でき、今度は1年間の社会訪問ビザ申請できます。もしあなたの月収がRM2000に満たなければ、マレーシア人であるRM2000以上の月収を持つ他の誰かにあなたの夫のスポンサーになることを頼む事になります。

しか、しあなたの夫がある程度の預金額を地元銀行の口座に預金しているのであれば、彼は1年間の社会訪問ビザを与えられることを考慮されるでしょう。一度あなたの夫が職をマレーシアの地に見つければ、彼は労働許可(労働ビザ)を申請する資格が得られるのです。労働ビザは年毎に発行され、その発行はクアラルンプールのPusat Damansara にあるImigresenの本部だけにおいてなされます。