クアラルンプールは安全なのか、安全でないのか? 犯罪統計をもとにしながら考える


Intraasiaからひとこと:この一文は「今週のマレーシア」 2004年8月と9月のトピックス に載せているものです。クアラルンプールの街歩きの輔弼情報としての意味合いで、ここにも掲載しておきます。

安全への関心は万人にある

ある国・地方が安全であるか、安全でないか、という心配と関心は、民族・国籍に関わらず外国人がその国・地方を訪れるまたは住む際に必ずつきまとうことですね。いうまでもなく、その国を訪れるまたは滞在する外国人にとって、安全感は誰にとっても非常に大切であるのは極めて当然なことです。これを大前提にしておきます。

安全の捉え方は個人によってもすごく違う

でこの安全を問う、安全を疑う、安全を論議する際に、よく忘れ去られるまたは無視されやすいのが、問う、疑う、論議する人たち 及び答える、主張する、論議する人たちが自身で持つまたは捉える安全・危険感、安全・危険意識です。安全感と危険感は人によって極めて極めて差があり違います、この差と違いは強調しても強調しすぎでないほど、あるのです。これを無視したり忘れた安全論議などは、あまり意味をなさなくなります。よってこれを中前提としておきます。

最初の大前提は万人が認め納得することですが、中前提は多くの人が案外気がつかないことですね。この2つのもとで、具体的なそれぞれの場、局面ではどうかということになります。

犯罪統計をもとにして考える

ある国が安全であるか、安全でないか、とはつまり結局のところ犯罪が多いか少ないかということですよね、そこでこのコラムでは犯罪統計をいくつか掲載して考えていきます。尚どの犯罪統計も警察による統計であり、複数の新聞に掲載されたものを引用しています。

注:安全・危険ということを考える際に、旅行者と居住者・住民の誰にでも直接且つ多いに関係あるのが交通事故です。ただ交通事故は、大きな過失または意図的でない限り犯罪ではないので、ここでは除外します。総合的な安全論議に交通事故を含めなければならない、と明記しておきます。

最初に次ぎの表をご覧ください。この表でいう犯罪とはどういう犯罪かの定義がないので、精細にはいれませんが、各州の比較にはなります。各種犯罪の合計などから推測すると、恐らくバイク窃盗のようなことを含めた主たる犯罪全ての意味でしょう。
犯罪発生の1日あたり平均件数
スランゴール州クアラルンプールジョーホール州ペナン州ペラ州ケダー州サラワク州
件数124646233282525
サバ州ヌグリスンビラン州クランタン州パハン州マラッカ州トレンガヌ州ペルリス州
件数17141211881

国内で発生する1日の平均件数は433件です。尚上表では小数点以下を四捨五入してありますので、合計件数は多少違います。参考までに2004年5月時点での全国の警察官は約86000人です。

現実として論じる場合、全国での発生件数平均はあまり参考になりませんね、なぜなら全国をまたにかけて巡るという方、全国に満遍なく滞在する方はマレーシア人でもまずいないし、外国人であればまず皆無に近いといってもいいでしょうから。

日本人に縁の深い州を取り出してみる

そこで多くの日本人旅行者に関係あるいくつかの州を見てます。日本人の好きなペナン州は33件です、これを多いと見るか少ないと見るか、まこと人によって捉え方に違いがあることでしょう。ペナンの2倍件数があるのが、クアラルンプールとジョーホール州です、数字だけの比較論から言えば、ペナンの方がより犯罪が少ない、それもクアラルンプールまたはジョーホール州の約半分だと言えます。しかし、人の捉える感覚と数字とはずれがでてきますから、現実にペナン州住民でペナンはクアラルンプールの半分程度の危険度だと感じる人がどれくらいいるのでしょうか。

州別で言えば(確か)日本人が一番多く住んでいるスランゴール州は発生件数上ではクアラルンプールの2倍の件数、さらにペナン州の4倍もあります。数字上からはそうですが、スランゴール州に住んでいる人はペナン州の4倍も危険を感じているとはちょっと考えられませんね。数字と実感に差が生まれるのはいくつかの要因があるはずです、まず州人口がスランゴール州はペナン州の約3倍あり、且つどんな犯罪でも地域に偏在して発生するので、数字のように単純にスランゴール州はペナン州の4倍も危険だとは言い難いですね。

同じ州内でも地域によって犯罪の発生は偏在する

のどかで近所の人だけでなく部落の人が皆互いに顔見知りのような村落の場合、都会で頻発する空き巣とか強盗といったような犯罪は例外的ですし、なんであれ犯罪がごく少ないのは誰もが認めることです。平均して日に1件しか発生しないペルリス州は人口20数万人の極小州なので、犯罪自体の件数が少ないのは当然です。この州に住めば、数字に基づいた60分の1の危険などと具体的に言えなくても、クアラルンプールやスランゴール州よりずっと安全だとは間違いなくいえるでしょうね。

一方多種多様な人間が集まり、人間のあらゆる欲と金が渦巻く都会になればなるほど、盗み、強盗、略奪、脅し、空き巣などの悪質犯罪が高まることも多くの人は経験的に知っています。さらにそれらの犯罪には銃、刃物が使われることもごく普通です。その結果意図せずまたは意図して殺人や傷害事件が起りますね。下段の複数の表を参照してください。

毎日ほとんど互いに顔見知りのコミュニティーですごす田舎(カンポン)の民であれば、小さないさかいは別にして、空き巣や強盗や恐喝などに遭う機会は、都会の民よりはるかに低いことはおわかりですね。ところが都会の民といっても一概にはいえません。新興住宅地であれば、空き巣にあう確率、ひったくりや強盗に会う確率は高くなり、あまり評判のよくない下町などではちょっとしたことからいさかいが起り、脅しや金、麻薬、ギャンブルなどに絡む犯罪もよく起きます。

しっかりした門と監視カメラ付き、時には敷地内にガードマン常駐の住宅が並ぶ高級住宅地や、警備員駐在室で見知らぬ者の出入りを厳しくチェックしているような高級マンションであれば、空き巣や屋内強盗に狙われる率はぐっと小さくなります。そういう場所に住み、出かける時は日中が多く常に自家用車、ショッピングンセンター内は別にしてめったに街の路上は歩かない、というような生活者であれば、ひったくりにあうことも路上で強盗にあうこともまれでしょう。

じゃあ猥雑でゴミの散らかる汚くうるさい古い下町の、誰でも勝手に建物内に入って来られるアパートに住み、裏道や路地裏を頻繁に歩いている筆者のような者は相当なる危険に面しているかといえば、そうでもありません。その街の特徴を知り狙われるような振る舞いと行動をしなければ、取りたてて被害に遭うようなことはありません。もちろんだからといって過信したり油断はしてはいけませんし、現実に不法行為は日常茶飯事であり、小犯罪の起きる芽はあります。

このように、居住者の場所と居住形式によってある種の犯罪に遭う確率に違いが生まれますし、当然ながら人の行動様式によって安全・危険に差がでてきますね。

クアラルンプールで起った犯罪の統計

クアラルンプールの犯罪に関して、国会答弁で国内治安省政務次官が明らかにした数字です。
犯罪種暴力犯罪殺人事件ひったくり単独武装強盗グループ武装強盗通常の強盗
2001年7958件52件2796件206件405件2894件
2003年8060件58件4262件93件411件3228件

これらの種類以外の犯罪はこの表では省略してあります。毎週殺人が1件起っている計算になります。しかし殺人は通常の市民にはやはりまれなケースでしょう。

クアラルンプールにおける犯罪件数 −警察発表

クアラルンプール全体黄金の三角地帯
犯罪種ひったくり路上強盗ひったくり路上強盗
2003年1年間の件数4262194218121063
2004年6ヶ月間の件数1750101759081

注:黄金の三角地帯とはクアラルンプールの中心部つまりKLCCあたりからブキットビンタン街に渡った商業ビジネス中心地域のことをいい, Jalan Ampang , Jalan P.Amali, Jalan Raja Cgulan, Jalan Sultan Ismail JalanImbi などの通りを含みます。


旅行者が遭いやすい犯罪に焦点をあててみる

旅行者がもっとも遭い易いのが、路上などでのひったくりでしょう。ついである種の脅しによる金銭的被害でしょう。これは表の路上強盗とひとまとめにくくれるでしょう。ごく一部の旅行者がいかさま賭博などに誘われて金銭的被害に遭うというのがありますが、これは相当程度は被害者の自業自得ですね。うまい話しにほいほいと乗るというのは、被害に遭ったことへの同情以上にその軽薄な行動に問題を感じるからです。といってもちろん、いかさま賭博に誘っているグループの悪行を許すものではありませんよ。

今年前半クアラルンプールで発生して警察に届のあったひったくりは1750件、つまり平均して1日に約10件ですね。同様に路上強盗が5.5件。ひったくり件数が昨年よりぐっと減ったのは、6月頃からひったくり犯罪が全国的に社会関心になり、ひったくり防止運動が沸き起こったためです。
人口約150万人の都市クアラルンプールで発生するこの数字を多いと見るか少ないと見るか、難しいところです。私自身は取りたてて多いとは思いません。犯罪はこの2種だけではなく、上の表のように様々な犯罪が起っているからです。

KLの黄金の三角地帯に限定した数字

そこで旅行者に多いに関係ある黄金の三角地帯の場合を見ましょう。ひったくりは1日平均3件ちょっと、路上強盗は1日平均3件もあった昨年より大幅に減って2日に1件弱程度に減りましたね。これはまず誉めるべきことです。この黄金の三角地帯は、国内の他の地域に比べて実に警察官の姿がよく目につく所です。ツーリストポリスの制帽を頭にかぶった警らの男女警官のグループをしばしば目にしますし、簡易交番も気がつくだけで5、6箇所は設置してあります。マレーシアの簡易交番は24時間そこに警官が詰めているのではなく、留守のときもよくあります。簡易交番の大きさは3,4人ぐらい中に入れば一杯になるぐらいであり、設備といえばエアコンがある程度の文字通り簡易な交番です。

黄金の三角地帯内には4星,5星ホテルがたくさんあります。 ホテル名をあげれば、Park Royal, JW Marriot, Westin, Regent, Imbi 通りに面したRitz Carton, Dorsett Regency, Melia, SultanIsmail 通りの Istana, Shangri-la, Equatorial, Concord, そしてAmpang 通りには Renaissance, Corus, Nikko などです。さらに Mandarin Oriental, Prince, Federal, Novotel Century, Swiss Garden などのホテルもこの地帯内のホテルです。ショッピングセンターをあげれば、Sungei Wang, BB Plaza, LowYat, Imbi, Lot10, KL Plaza, Star Hill, The Weld, Times Square, Ampang park, そしてSuria と有名な名前が次次ぎと並びます。モノレール駅として Imbi駅、Bukit Bintang駅、Raja Chulan駅、Bukit Nanas駅がこの一帯にありますね。

このように黄金の三角地帯は、たくさんの観光客が朝から夜まで徘徊するブキットビンタン街、ツインタワーのあるKLCC、KLタワーを核とし、有名なオフィスビルが立ち並ぶ文字通り、クアラルンプールのビジネスと観光の中心部です。だからこそ警らの警官があちこちで目につき且つ簡易交番も複数設置されているのですが、それでも昨年は1日平均 5件のひったくりと 3件の路上強盗が発生しました。今年前半はぐっと良くなって1日平均 3件のひったくりと 0.5件の路上強盗に減りましたね。どのくらいの数かはわかりませんが、この総件数の中には外国人旅行者が被害になった数も含まれているはずです。

まあ1日平均3件のひったくりと0.5件の路上強盗なら、ないに超したことはないが仕方ないなあとあきらめの数字と私には思えますが、3件もなんてとんでもないと憤慨される、旅行者の方ももちろんいらっしゃることでしょう。それが中前提とした、安全・危険意識の違い、さらに状況認識と立場の違いによるものですね。

読者の方々はこの数字をどう捉えられますか?

黄金の三角地帯に近接してその外側に住む筆者としては、クアラルンプールの経験する今年前半平均して1日に約10件のひったくりと路上強盗が5.5件は、あきらめの数字とはちょっと言えませんね。なぜかと問われても、これはもう居住者としての漠然とした感覚からであり、理論的な根拠からのものではありません。というよりどの程度が理論的に許せる数字というのはありえないと思います。

表に示したクアラルンプール全体の数字は、行動するのはほとんど黄金の三角地帯内でその外は観光バスなどで移動するだけの大多数の旅行者にはほとんど関係ないでしょうが、知識としてここでお知りになったこの数字をどう捉えられるのでしょうか?

全国でのひったくり発生件数を比べてみる

ひったくり犯罪に限定ですが、全国の州別の統計数字を引用しておきます。
ひったくり発生件数 2004年前半期
ペルリス州ケダー州ペナン州ペラ州スランゴール州クアラルンプールN.スンビラン州
件数1136458543416751750166
マラッカ州ジョーホール州パハン州トレンガヌ州クランタン州サバ州サラワク州
件数123787928077120376

6ヶ月間の全国合計は6640件で、昨年同期間の8668件よりぐっと減っています。

ひったくりだけに限定しても、ペナン州の発生数はクアラルンプール、スランゴール州の3分の1程度ですし、犯罪総数の1日平均でもペナン州はジョーホール州より少なかったので、上記で分析した傾向としては合致しています。ペルリス州の極端に少ない数字が示しているのは、やはりペルリス州は他の大きな州、大都市に比べて、ひったくり犯罪に遭う可能性がずっと少ないといえますね。

外国人旅行者が被害にあった数

詳しい説明なく載っていた、被害者が外国人旅行者に限った統計数字を最後に引用しておきます。全国における被害件数だと推測します。
外国人旅行者が被害者の件数

ひったくり路上強盗
2003年6月の件数342件46件
2004年6月の件数304件33件

外国人旅行者は全国で毎日10件ほどひったくりに遭い、路上強盗に1件ほど遭っているわけですか。さてこの数字を皆さんはどう感じられるのでしょうか?