「これいけてるかも」バック・ナンバー
1999/2月号
KORG WAVESTATION A/D

-はじめに-
WAVESTATION A/D(以下WS A/D) は、01R/Wと一緒に発売後間もなく買いました。
そもそも初購入シンセがDWだっただけに、短周期ループ波形を持つシンセはとても好きで、鍵盤付きWSが出た時から「絶対ラック版が出たら買う!」と思っていました。
その頃世間はかなりバブリーで、KORG の広告はすっごくカッコ良かった。 01の時も最初シルエットで広告出して、「全貌は次号で!」みたいな憎いことをやってたし。 WSもプロモビデオ(最近めっきり見ないね、こーゆーの)があり、楽器屋でもらって何回も見ました。

WSのラック版は、鍵盤付きWS発表から結構あとで発表された記憶があり、何かの楽器フェアを挟んだあとだったと記憶しています。ラック版発表までで一番心配したのは、“はたしてベクターシンセ特有のジョイスティックがラック版で残っているか”でしたが、さすがはKORG!しっかり付いてましたね。シンセものの雑誌でのフェアの記事に、WS A/Dのプロトの写真が小さく載っていた時は、ジョイスティックが付いているかだけを目を細めてチェックしていました(笑)。

さて、購入後の第一印象は「ハッキリ言って階層が深い・・・」でした。まあ、今までいじっていたシンセは、アナログにしろPCMにしろほとんど減算方式でしたし、難解とされるDXにしろ考え方は“エンベロープで歪ますサイン波シンセ”感覚でしたから(マニュアル本も多かったですし、DX7-IIではそんなに階層が深く感じられない)、かなり面喰らった憶えがあります。実際、買って半年くらい全くエディットしませんでしたから(笑)。で、なんでいじるようになったかと言うと、実はこのマシン、佐々木が昔いた某サードパーティーの入社テストの一環で「んじゃWSで音色作って来て」という課題が出たからでした。「くぅ〜っ、嫌なマシンついてきやがった!!」と思いましたが、そこは若かった勢いで頑張っちゃいました。今思うとホントに純粋だった(爆笑)。
まぁ、そのおかげでWSは理解できたので、今となってはラッキーだったかなと・・・。

あと、目に付く点と言えば、ディスプレーの文字。大文字と小文字の太さのバランスが悪く、かなり不格好で笑えます。
WAVESTATION A/Dのロゴ自体は、この機種をよく表していて良いのではないかと。
テンキーなどは比較的大きく、柔らかな曲面をもったボタンなので、結構使いやすいです。

それでは、内部構造について、掘り下げていきましょう!


-WSの音色構成-
さあWSの階層についてですが、基本的に、最高32ボイスで、一般的な“パフォーマンス”が1音色となり、最高8パッチまで使えます。ここで、レイアー、スプリット、べロシティースイッチなどのMIDIch以外の設定が出来ます。本当はこのパフォーマンスの上に“マルチ・セット”というマルチ・ティンバーで使うためのモードもありますが、この機種の性格上「たくさんのパッチで1音色を構成する」なので、マルチ・ティンバーでの使用は期待しない方が良いです。すっぱりあきらめて「1音色入魂型シンセ」と思えばスッキリしていて間違いないです。ですので「最高32ボイス」も実際、同時発音8音以下になる事もしばしばです。
パフォーマンスは最高8パッチで構成されていることはわかったかな?そしてそのパッチですが、これも最高4コのオシレーターを使うことが出来ます。オシレーターといっても、フィルターやピッチやアンプエンベロープは個々に設定でき、さらにフリーエンベロープも1つ(普通はフィルターに使う)あるので、かなり強力にエディット出来ます。フィルターは残念ながらレゾナンスはついていませんが、オシレーターシンクは搭載されていますので、プロ5などに代表される、アナログシンセっぽいFAZZトーンは実はけっこう簡単に作れます。 プリセットの中にこれをうまく使った音色がなかったのは、アピール的に失敗だったのではないでしょうか。


-オシレーターの波形-
オシレーター波形はWS A/Dの場合、 ROMに483のPCM波形(大量のショート・ループ波形やアタック成分のついたPCM、ドラム音色)、そしてROM1、RAM1、RAM2、RAM3に各32コのウエーブ・シーケンス波形があります。そしてWS A/Dは「A/D」とついているだけあって、外部インプットが2系統ついていますが、これもここにアサインします。言わばオシレータの代わりに外部入力を使うことができるワケです。ウエーブ・シーケンスとは、この483をくっつけて、名前通りPCMをシーケンスさせてオシレーターとするものです。WSのPCMのほとんどはアタック部を持たない波形なので、ウエーブ・シーケンスさせることによって、レゾナンス変化やギターのフィードバック効果などをつくり出します。逆にドラム波形でリズムグルーブなども作れます。ある種物量的な表現方法ですが、この無理矢理な音色変化がベクターシンセサイザー独特の特徴と言えるでしょう。ウエーブ・シーケンス製作では、使用する個々の波形ことに、発音している長さ、ピッチ、クロスフェードや、出来上がったシーケンス自体のループ再生などの設定ができ、もちろんMIDIシンクも可能です。これら最大4種のオシレーターを例のジョイスティックでグリグリと動かして音色変化をつけることが出来ます。このジョイスティックの動きは音色パラメータの1部として保存も出来ますし、MIDIアサインして外部のシーケンサー等でもコントロール出来ます。これらの複合ワザで大胆な音色変化が可能なのです。


-その他-
パッチ部分でも十分な音色変化が出来ますが、更にWSでは内部構造がバランス良くマトリクスなので、エフェクトパラメータなどをホイールなどにアサインすることが楽に出来ます。音色自体の変化に加え、さらにモジュレーションやピッチホイールなどで大胆に変化が付けられるのがミソと言えるでしょう。


-最後に-
いや〜っ、最後まで読んでいただいて御苦労様です。WSがかなり柔軟な設計思想なのはお解りいただけましたでしょうか?逆に言うとこの柔軟さが難しさにもつながってしまうこともあります。他にも、1バンクに、パフォーマンスが50コ入るのに、その中にパッチは35コしかメモリー出来なかったり、またその下の階層にあるウエーブ・シーケンスは32コのメモリーになっているなど、かなり数字的には「なんで?なんか中途半端な数・・」と思うことがあるかも知れませんね。多分これは1バンク分のメモリー容量から割り出された数だとは思います。プリセットはRAM1、RAM2などのパッチやウエーブシーケンスを使用している場合もあるので、全く新しい音を作るなら、RAMカードを1ヶ買ってそこにストアしていった方がいいと思います。WSを会得するコツは(他のシンセもそうですが)、早く階層構造を覚えてしまうに尽きます。まだエディットにチャレンジしていない人は頑張ってみて下さい。最後に出音についてですが、A/Dインプットは現在の製品と比べ、かなりデジタルノイズを発生します。普段は外部入力を使わないなら、グローバルモードでアナログ・インは“DISABLE ”に設定しておいた方が無難でしょう。エフェクトも多少ノイズを発しますが、このエグさは“DISABLE ”するには惜しい!ので、気にせず使ってます。逆に言えば、エフェクトも“DISABLE ”にすると物凄く静かです。なお、エフェクターにはボコーダーなども用意されており、もちろん外部のシンセを使わないで、単体でボコーダーを楽しめます。結構いい質感ですよ。
姉妹機としてWaveStationSRという1Uラック版もあります。音色は完全コンパチブルですが、A/Dインプットは無く、パネル面での音色のフルエディットも困難です。ただし、プリセットRAMも増え、コンピュータの音色エディターを使っているならいいマシンと思います。WS A/Dで出るノイズも皆無になっていますが、逆に音色の質感も独特のザラツキが消え、多少クッキリしています。ベクターシンセが好きならばある種別物と考え、両方もっていても損は無いと思います。佐々木は中古でSRを買う気でいます(笑)。

このWS A/Dは日本製としてはあまりにも独特の質感を持った出音がします。これは一連のKORG製品とも異なり、外国製品で聞かれる“立つ音”がします。デジタルでこの“立つ音”を持つものはそうそう見かけません。これは機材が増える程に感じますが、WSの得意とする“フワッとしていながら劇的な変化のあるPAD音色”などでも不思議と埋もれた音になりません。これが設計者と言われる、プロフェットやWSの直系の先祖に当たるProphet VSを作った、デイブ・スミスの狙いでそういう音になったかどうかは定かでありませんが、とにかくKORGというメーカーのシンセとしてもとても異質であり、かつ個性的です。中古もこなれて来ましたし、優等生なマルチティンバーシンセに飽きたら、おひとついかがですか?