錫杖岳/前衛フェース/錫思杖戯(新ルート開拓)

チーム84/小林浩、山崎久子、森上和哲


< 記 録 > 森 上 和 哲


<山行日> 1998年6月21日(月)、8月25日(火)
概要:<<1回目>>    6/21 槍見温泉〜岩小舎〜ルート開拓(途中)後下山        <<2回目>>    8/25 槍見温泉〜岩小舎〜ルート開拓(全8P)、後左方カンテ終了点付近に       てビバーク    8/26 左方カンテを懸垂下降〜岩小舎で干し物等して澤田・広岡パーティを待つ    8/27 雨の中下山     <1回目の記録> 6/21 曇のち雨  白壁にルートを拓くつもりでいくが、何も考えていなくて、1ルンゼ本流の左壁から登り始めてし まう。8時くらいスタート。  森上、小林の順番で2ピッチ登ったが、ここらは傾斜がないので人が登った形跡が見られる。とて も簡単。ここで上を見て、このままでは白壁の真ん中辺に出てしまうことがわかった。このため、1 ルンゼ左ルートの方に懸垂する。1ルンゼ左フェース(北沢フェース)2ピッチ目の大テラスにギリ ギリ1ピッチで到着。面倒な懸垂だった。  ここから白壁、白壁カンテを見上げるが、ほとんど弱点なし。途中までフレーク、リスはあるが、 その後が全然ダメそう。のっぺり、というかんじ。頑張れば行けるのかもしれないけど、時間がかか りそうだ。  白壁カンテの左側にはコーナーがある。コーナーはびしょびしょだが、それに沿ってボルトラダー が走っている。これは、登山大系や日本の岩場で北沢フェースの右バリエーションのように描かれて いるラインか?それにしてはリングボルトがピカピカ輝いている。  そのコーナーのさらに左側にはカンテがあり、ここに向かって細いリスが走っている。それを目指 して1ピッチフリーで登る。森上。30mくらい(これは北沢フェース右バリエーションのピッチのす ぐ左)で、これも簡単。  その後カンテラインに沿って、クラック〜リスのネイリング。今回は結局ここまでだったが、いい ライン。ここは小林のリード。格好いいラインで、とてもうらやましい。 このピッチ、傾斜はない けど45mある。カムを4・5回かませた後、約30mリスのネイリングなどが続く。KB Shortのタイ オフや、RURPや、Bird beakやらがでてくる。リスのないところはフックでつないでいた模様。  最後にカンテを左に回り込んでビレー点。LAとエイリアンとペツルでビレー点にするが、小林はペ ツル1本埋めるのに50分かかってた。キリも1本ダメにして2本目でやっと開いたようだった。本当 にここの岩は堅い。でも、50分かけたおかげで完璧なビレー点になった。クリーニングを終えて、午 後3時。  このビレー点は北沢フェースのちょうど右端に当たる場所だ。ここから、右の白壁側に走るリスを 登ろうと思ったけど、大雨が降ってきた。5月に来たとき雨がすごく降って、川が大増水して、アプ ローチの渡渉が渡れなかったことを思い出す。 「いま粘ったら、あした帰れなくなるかもしれない な・・・」先はなんとなく見えたので、懸垂で降りることにする。せっかく全部荷上げしながら登っ ていたのに、無駄になってしまった。   <<2回目の記録>> 8/25 曇のち雨  今回は小林の他に、5月に一緒に錫杖に来た山崎も一緒だ(6月も山崎は一緒に来る予定だったが、 風邪のため不参加となった)。天候は全くダメそうで、3日間入る予定だが入山日以外は降水確率70 %だった。「初日勝負だな」    槍見温泉0450-岩小舎0640〜0720-取り付き0750〜0825    6月の時に変な風に登ってしまったので、今回は最初から全部登り直し「きれいに」登ろうという ことになった。    <<1P目 5.7  45m リード:小林>> 0825〜0915  オリジナルルートで始めようと思っていたがいいところが無く、作ってもこじつけで、つまらなく なりそうなので、北沢フェースルート右の左上する凹角状から取り付く。ここは残置があり、わりと 登られているみたいだ。ロープ一杯にのばして、コーナー左はじの既成のビレー点まで。    <<2P目 5.8  10m リード:森上>>0915〜0950  すぐ左上に見える大テラスまでフリーで登る。    <<3P目 A0 5.8 40m リード:山崎>>0950〜1100  大テラスから白壁の一番下にある箱形ハング下のビレー点まで。 ラインは色々とれるが、大テラ スからボルトラダーのある真上のフェースを直上した。山崎は本番の経験が浅いためか、ボルトに足 をのっけて越える場面もあった。山崎曰く「あれはフリーで行けました。5.8くらいですかね」との こと。    <<4P目 A2+ 5.7 45m リード:小林>>1100〜1330  左上に見えるカンテを目指して草付きを左上。カンテラインを最初はエイリアン、それからナイフ ブレード、ラープ、バードビーク、フックなどを使って登る。 見栄えのするかっこいいピッチ。終 了点はペツルとLAを残置。ここは北沢フェースの右端にあたる場所になる。    <<5P目 5.8 15m リード:森上>>1330〜1415  カンテをフリーで大テラスまで。ハング下の大テラスはとても広くて快適。    <<6P目 A1 5.8 45m リード:森上>>1415〜1920  大テラスから正面のハング右端に食い込んでいるクラックを登る(北沢フェースルートは大ハング の正面をラダーで越えていく)。  大テラスの右端からフリーで少し登ってから、ハング右端のクラックをカム、ロックスで越える。 時々フックも使う。リスだと思っていたのがクラックで助かった。ただ、泥掃除がうっとうしかった。  ハングは2段になっていて1段越えると、その上が洞穴ハングになっている。既成ルートは洞穴の 左端を越えて行くが、僕たちは正面のクラックをカム類で越えた。最後はピトンを1本打ってハング 上にでた。 このピッチから雨が降り始め、だんだん激しくなってきた。ハングを越えると、雨が当 たり始め、全身びしょぬれになってしまった。泥掃除の泥も、体中について、もうどうでもいいやっ て感じ。  岩場の上部に来たためか、岩が少しもろい。カムをセットして、ペツルを1本うつ。パンプの木村 さんから借りた電動ドリル使用。すごく早くて穴を開けている時間自体は5〜6分だったような気がす る。ドリルのセットからハンガーを回し終わるまで全て入れて20分だった。 ユマールを待っている 間、稲光がすごかった。真っ暗な中、ずぶぬれでぼーっと待つ。  ここの所、岩場での行動終了時間がどんどん遅くなっていて、一昨年の夏はハーフドームで12時過 ぎまで登っていたし、昨年のゼンヤッタの時は相棒の飛行機の関係で徹夜で登っていたので、暗いの とか遅いのは全然気にならない(一言でいえば登るの遅いんだな)。ただ、今回はルート開拓なので 先が読めないのと、雨が降って視界が悪いのが気になる。クリーニングと荷上げのあと小林と話す。  「どうする?」「ワシ、ちょっと行ってみますわ」登攀を続行。    <<7P目 5.7 45m リード:小林>>1920〜  大雨の中、小林がリードして暗闇に消えていった。下から見るとすごく悪そうに見えるが、「結構 ガバとかありますよ」とのことだった。ただ、プロテクションはあんまりとれない。    <<8P目 Class4 45m リード:小林>>  ほとんど木登りで、最後は左の方にでていくと、左方カンテ終了点にでた。そのすぐ上の平らな空 き地でビバーク。雨が降って、全身びしょぬれで寒かった。雷が相変わらず鳴り続けていた。  翌日、左方カンテを懸垂下降して終了。  完全なオリジナルは4〜7Pの4ピッチですが、各ピッチがわりと長いので、自分たちとしては楽 しめました。錫杖には5・6・8月と行きましたが、行くたびに雨で、しかも全身びしょぬれになり、 本当天気にはたたられる山でした。でも、一応ルートができてよかったです。   <ギア> ・ キャメロット2セット、ロックス2セット、エイリアン2〜3セット ・ RURP 1, Bird beak 1, KB 5, LA 3, Angle1, Fook 各種  多分使ったのはこれくらいだったと思います。 すごく難しくはないですが、各ピッチともそれな りに長いので、ビナ、スリングなどはある程度必要だと思います。6P目では、カムをかなり間引い て、使い回しています。   <ルート名について>  私の師匠 雄山忠さんがルートを拓くとき、「ルート開拓」なんていわずに「ちょっと悪戯(いた ずら)しに行く」といってました。だから、最初は澤田君のルートとあわせて、男ばっかりの澤田・ 広岡の方を「いたずら小僧」、女性も入っているこちらを「いたずら娘」としたら、すごく面白いね、 といってましたが、いやがる人がいて実現しませんでした。残念。   結局ルート名は「錫思杖戯」としました。「しゃくしじょうぎ」と読みます。命名は小林で「錫 杖でいろいろと思い、そして戯れたなあ」というところからつけたました。 <その他> >> 白壁カンテの左側にはコーナーがある。コーナーはびしょびしょだが、それに沿っ >>てボルトラダーが走っている。これは、登山大系や日本の岩場で北沢フェースの右バ >>リエーションのように描かれているラインか?それにしてはリングボルトがピカピカ >>輝いている。  これなんですが、今回よく見たら、このボルトすごかったです。 ・ 間隔が異常に近い=60〜70cmくらいじゃないかな(測った訳じゃありません) ・ すごくばっちり打ってある=岩の堅い錫杖では、根本まできちんと打ってあるボルトはほとんど  ないです。その中でここのラダーだけは全て根本まできちんと埋まっていました。 ・ 意味のないボルト=すでに古いボルトがあるのにその横に並べて新しいのが2本も打ってあった。  ピトンがリスに打ってあるのに、すぐ横にボルトが打ってある、など。 ・ 全部新しい、ピカピカ輝いている。  これらのことから、このボルトは多分ここ数年以内に、誰かが電動ドリルを使って設置したのでは ないかと思います。見上げていて、これ打った奴のセンスのなさに腹たってきました。暇だったら、 全部ひっこぬいてもいいと思いました、本当(今回は雨に追われて、それどころじゃなかったけど)。

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